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京町家再生研究会

職住一致の町家暮らし ─―ギャラリー・りこ(Sj邸)

内田康博(再生研究会幹事)
4軒並びの左端
4軒並びの左端

 玄以通りの一筋南、大宮通りから東へ入ってすぐ北側の「ギャラリー・りこ」をお訪ねし、お話をお聞きしました。行儀よく4軒並んだ2階建ての町家の西の端にあたり、ミセの間をギャラリーとされ、ナカの間から奥と2階を住居とされています。トオリニワは土間のまま残され、奥へ進むとオクの間も土間続きで屋根まで吹き抜けになった織屋建ての形式です。高い天井には3つの天窓から明るい光が降り注ぎ、土間にはテーブルと椅子が置かれ、壁際にはキッチンセットが据えられ、リビングダイニングキッチンとして使われています。天井の低いミセニワとハシリニワを通り抜けてこの空間に入ると、誰もが高い天井を見上げ、思わず「わあー」と声をあげ、にっこりとされるそうです。

 3年程前にご主人の仕事の関係で明石から京都に移り住むことになったとのこと。子育ても一段落したことから、個人でお店をはじめることを考え、職住一致を可能とする町家を探されました。たまたま楽町楽家の見学会に立ち寄り、京町家情報センターに出会い、その紹介でこの町家に住まれることを決めました。

 改修方針としては、町家の空間を生かし、長持ちさせることを優先し、手を入れるのは最小限に留めました。築70年程になるこの町家は、以前は学生下宿として使われ、オクには天井付きの個室が挿入されていましたが、吹き抜けの空間を生かすために取り壊し、キッチンセットを据え、生活の中心としました。ミセの間とミセニワの壁は吹き付けの綿壁でしたが、コソゲ落として中塗り仕上げとしました。2階はほぼもとのままです。屋根と外壁は大家さんの担当で、雨が漏らないように改修されています。

 改修が終わって入居されたのが一昨年の12月。瀬戸内気候で冬でも比較的暖かい明石の団地から厳冬の京都北郊に来られた当初は、あまりの寒さに戸惑われたそうですが、2年目からは上着を着るなど対処の仕方にも慣れ、それほど気にならなくなったとのこと。戸や窓を開ければ庭と一体となって、風が通り、土間には枯葉も舞い込み、虫とも共存の生活です。以前は蟻一匹も気になり、潔癖なほどに掃除をされていたそうですが、今ではあまり気にならなくなってきたとのこと。トイレと風呂に行くには一度庭に出る必要がありますが、土間の続きです。庭に面する風呂の窓を開ければ星が良く見え、気が向けば蝋燭の明かりで入浴時間を楽しむこともあるそうです。リビングの高い天窓からの光で日中は照明なしですみ、夜は家の中から月を愛でる生活です。こちらに移り住んで一番変わったことは、とにかく細かいことに気を使わなくなり、自然と一体の気楽な生活をするようになったとのこと、ご主人と娘さんも町家での生活を楽しんでおられる様子でした。

ギャラリー スペース
ギャラリー スペース
 今年の1月からはじめられたギャラリーではお客さんのリクエストを聞きながら品揃えを整えつつあり、居心地が良いといって長居するお客さんとの会話を楽しんでおられます。楽町楽家のオープンハウスにも参加され、3日間に思いのほか多くの来客を迎えて好評を得、ウクレレの演奏が行われた「都ライト」などを通じてご近所さんとのお付き合いも増えつつあるようです。4軒並びだけではなく、近くには同じ大家さんの貸町家もいくつかあり、能絵師や縮緬工房、古時計修理やアロマテラピー、8月にはドイツ菓子のお店がオープンするなど、お店を開いて町家を活用しつつ、暮らしを楽しまれている様子。この界隈でも町家はしっかり息づいているようです。
2007.9.1