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京町家再生研究会

お蕎麦屋さんからギャラリー + 陶工房へ 
  ―ギャラリー「昌の蔵」、陶工房「器土合爍(きどあいらく)

内田康博(再生研究会幹事)
4軒並びの左端
座敷の一部を廊下兼ギャラリーに

 錦小路堺町東入る、錦商店街の中で改修を終えた町家にお邪魔してお話をお聞きしました。今年の4月まで36年間、「生蕎麦山茂登」として多くの人に親しまれてきたお店を閉じ、ギャラリー+陶工房として新たな出発を決意し、10月17日(水)のオープニングの準備をされているところでした。改修は作事組が担当しました。
 家の歴史をさかのぼると、江戸時代の末頃から戦前まで仕出屋をされていたとのこと。個人の方の冠婚葬祭や財閥からの注文が多く、明治35年築のこの建物の新築祝いに富岡鉄斎から贈られた書などが保存され、当時からの文化人との盛んな付き合いの様子がうかがわれます。
 今回の改修の主な目的は、お蕎麦屋さんをギャラリーにすると同時に、東側の主屋と一体として使われていたハナレ座敷を独立して使えるようにすることでした。隣の建物のトオリニワを共用することにより、幅一杯に座敷が建てられているため、離れの陶工房とオモテのギャラリーを結ぶべく、座敷の一部を仕切って通路を通し、間仕切りは和紙パネルと棚の展示スペースとしています。座敷は12畳から9畳へとすこし狭くなりましたが、それでも堂々とした座敷です。長押をまわし、床、棚、書院を設え、奥行きの深い仏間の扉は2重として宴の席に配慮されています。仏間の内側の引戸の左右は朱漆塗りの小壁で色鮮やかに縁取られています。各部の取り合いに寸分の狂いもなく、100年前に建てられたとは思えないほど美しく保たれています。前栽を見通して奥には蔵が見え、こちらもギャラリーとして開放する計画です。前栽の左手には仕出屋の時代には盛んに使われていた立派な井戸があり、右手奥の風呂と便所は取り壊して新しい便所と流しが作られました。正面の蔵の右手には、ご主人自ら息子さんのために作られたという陶芸小屋と作業場があります。

陶芸ギャラリー
陶芸ギャラリー

座敷
(写真提供:昌の蔵)

 錦小路の商店街のにぎやかさからは思いもよらない、落ち着いた、品のよい座敷がとても美しく保持されているのは、3年ほど前に亡くなられたお母さんがとても大切にされてきたからとのこと。江戸時代末からの仕出屋として京都に伝わる伝統的な食文化を受け継ぎ、四季折々の年中行事を事細かに伝えてこられました。36年間の長い間、多くのひとに愛され、惜しまれながら閉じることにした、出汁に重点をおいた蕎麦屋よりも、もっとやりたいことが、この家に受け継がれ、お母さんが大切にされてきた食を中心とした京都の伝統文化を次の世代の人に伝えることでした。「昌の蔵」はお母さんのお名前の一字から名付けられたそうです。錦で買い物をするだけでは知ることが出来ない、錦に伝わる食の歴史、京都の伝統的食文化、季節の行事、おせち料理や月見団子、お供えの意味などを伝える場として、この家を使っていきたいとのこと。長年培った錦商店街を中心とする人脈も多く、書や長唄などお稽古事の教室、各種伝統工芸のセミナーやギャラリーとして活用の構想が溢れているようです。また、京町家友の会とも連携して様々な企画が進んでいるようです。まずは、気楽に立ち寄れるギャラリーから、どうぞお出かけ下さいませ。(開店は10:00〜18:00、月曜定休の予定とのことです。)

 
2007.11.1