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京町家再生研究会

店棟・玄関棟の復元と改修。そして、大学キャンパスに  ―中京区・小島邸

内田 康博(再生研究会幹事)
改修後のファサード
改修後のファサード
 京町家再生研究会の本部がおかれる小島邸が改修された。主屋の棟札から上棟は明治32年(1899)。それから40年後、建築当初の施主からこの家を引き継がれた小島家が呉服問屋として住んでおられたが、その後、呉服の店を廃業し、店の間の部分を貸されていた。一昨年6月に借り手が退去されたのを機に、1年半の準備期間を経て、昨年10月から表屋の部分の改修に取り掛かることとされた。
 業務上の便宜のために長年の間にいたるところに手が加えられ、建物にとっては必ずしも適切とはいえない改修も多くあった。気になりながらも店舗があるため、手をつけることの出来なかった部分もすべて見直し、改修をされた。基本は建築当初の形を踏襲し、なおかつ現代の暮らしに必要な設備は整えることとされた。
 まずファサードの部分に痕跡を残すのみであった平格子とばったり床机を復元し、2階のガラス窓は虫籠窓に戻された。中庭は床が張られトタンの屋根で覆われた部屋となっていたが、床を剥がし屋根を取り、元の庭に戻し、居住空間として、また建物の維持のためにも必要な採光と通風が確保された。通りに面した塀は板を新しくされた。表蔵の前には床が張られていたが撤去し、土間に戻し、二間続きのミセの間は当初は畳敷きであったと思われるが、今後の使い勝手を考えて土間とされた。また、屋根もすべて葺き替えられた。

光と風を取り戻した中庭

 小島邸 平面(ミセノマ部分)
 平成4年に立ち上がった京町家再生研究会の本部として15年を経過した今、この建物にとっても大きな事業を終えられようとしている小島氏は、思えば10年前でも10年後でもこれだけのことはできなかっただろうとのことだった。再生研を通じた様々な活動のなかで京町家の多様な側面の知見を広め、京町家をめぐる多くの人たちとの出会いを得、何よりも京町家に住まわれ家族と家を守り続ける中で身につけられた多くのことの総体として、今回の改修があったのではないかと感じられた。日々の生活のなかで職人さんの仕事の様子を身近に感じるお施主さん、傍目で見てもこれほどまでと思われるような手間のかかる仕事を難なくこなされる出入りの大工さんと各職方、そして建築の歴史や意匠、構造を専門とする多くの先生方の調査研究の結果をふまえての復元と今後の使用を考慮した改修計画を練られた設計者の三者が、長い時間を経るなかでかみ合って、はじめて成り立ったのだと思われた。
 改修に取りかかった時点では使い手は未定とお聞きしていたが、改修が進むうちに京都学園大学との縁が結ばれ、完成時には町家キャンパスとして活用される見通しとなった。長い歴史と深い文化を誇る京都の象徴の一つでもある祇園祭の鉾町の一角を担う小島邸を入り口として、学生たちは他にはない多くのことを感じ、学ぶことができるだろうと思われる。
2008.5.1