紙の鎧の工房と住まい ―上京区・鎧廼舎(よろいのや)うさぎ塾(Ng邸借家)内田 康博(再生研幹事)
前々号の京町家通信「改修事例」で報告されました、上京区Ng邸借家に入居者が決まり、早速お住まいになられて2ヶ月ほどが経ちました。そこで、入居の経緯、お住まいになられての感想や、紙で作る本格的な鎧についてお話をお聞きしました。まずは、鎧についてお聞きしました。「紙」と「鎧」は相容れないイメージがあり、子供のころに新聞紙で作った折り紙の兜を想像してしまいますが、実は「鎧・兜」の芯は鉄や革ばかりではなく、実際に紙も使われていたとのことでした。丈夫な和紙を貼り重ね、柿渋と漆を塗り重ねた鎧は十分実戦に耐え、むしろ鉄や革より軽量で実用的とも言えるようです。日本の伝統建築が木、土、紙など柔らかな素材を組み合わせてねばりづよい構造体とすることと共通する匠の知恵を感じます。現代の実用には現代の素材も使用されているとのことですが、美しい彩りの紐で組み立てられた鎧兜は、伝統の技法を大切に守り伝える本物であると感じました。作り手が思いを込めて作ったものが本物との言葉に、もの作りすべてに通じる精神を感じました。それを広く知って頂くために、完成品を販売するだけではなく、鎧づくりの教室を開き、実際に制作する体験を通じて感じていただいているとのことでした。
住まわれての感想は、以前のマンション暮らしと比べ、住んでいる実感があるとのこと。ファサードの出格子を復元し、壁はすべて土壁をそのまま見せるなど、素材も技法も姿も出来る限り伝統に則って改修された建物に入居し、数日で空気が澄んでいることに気付き、生きている家のパワーを感じたとのこと。外の気配も身近に感じられますが、それは物作りにはとても大切なことで、土間のまま残したトオリニワは毎日水で洗い流せ、外にあるトイレは当初は抵抗がありましたが慣れると逆に気持ちがよく、お客さんにも気安くお使いいただけるなど、むしろ合理的と感じることが多々あるとのことでした。狭いと思われたお風呂も掃き出し窓を開け放てば庭と一体となり、露天風呂の気分を味わえます。ここに通われるうさぎ塾塾生のみなさんも、空間の心地よさに以前の教室よりも長居をされるようになったそうです。 大きな座卓や水屋箪笥などを制作された伊勢の神具店さん、前栽の竹垣などを設えていただいた近所の竹屋さんは、建物と住まい方に触発され、特別に腕をふるってくれたそうです。前栽には今回掘り直した井戸の水がスプリンクラーで撒かれ、見るからに涼しげな風景が楽しめます。 うさぎ塾はミセの間が「鎧・兜」のギャラリーとなり、いつでも見学可能とのことです。教室も随時ひらかれています。また、11月16日(日)には上賀茂神社で奉納展示が催され、塾生の皆さんの「鎧着初式」の晴れ姿を見ることができます。ご興味のある方は、どうぞお出かけください。 |
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2008.9.1 |