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京町家再生研究会

産まれ育った町家をユースホステルに建て替え  ─東山区・清水ユースホステル

内田 康博(再生研幹事)
 清水寺の近く、茶碗坂の中程、一筋南の清水ユースホステルをお訪ねしました。本欄では、これまで古い町家を改修して再生する事例をご紹介してきましたが、今回は新築の事例です。新築といっても、一見改修のように見え、たたずまいは周囲に残る伝統的な町並みと調和し、懐かしさを感じさせます。それもそのはずで、ここに元あった建物を解体し、出来る限り部材を再利用し、ファサードと間取りの一部は元の建物を踏襲して造られたとのこと。新築の新しさと、伝統的な建物の落ち着きを同時に感じながら、ご当主にお話をお聞きしました。
再生後のファサード
再生後のファサード
清水ユース建替前
清水ユース建替前

床の間まわりを再利用し特別室に

  この敷地には、昭和10年築の仕舞屋型の町家が2軒並んで建っていました。そこに現在の当主の御祖母が七条から移られ、お父さんから現在の当主へと受け継がれてきました。
 ユースを始めるまでは会社勤めをされていましたが、学生時代からよく利用され、奥様との出会いのきっかけともなったユースの経営を長い間検討されてきたとのこと。大好きな北海道や信州での開設も考えられたとのことですが、関東生まれの奥様のすすめもあり、最終的に生まれ育った京都の自宅を作り直して始めることにされました。
 当初の構想では、法規やユースの規定をクリアするためには、まったく新しく作り直し、そのなかに少し和風の要素を入れるのが限度で、コストも考えるといわゆる建て売り風になってしまっても仕方がないと思われていたそうです。しかし、京都の他のユースなどあちこちからツテをたどってたどり着いた設計者の木下氏(アトリエRYO)と出会い、相談を重ねるなかで、居住とユース経営の機能を満たすためには改修では無理でも、2軒を1軒としながら間取りを踏襲し、部材を再利用することで新築でも元の建物の骨組みと雰囲気を残すことができるとわかりました。コストも設計の工夫と工事を担当された山内工務店さんの努力で予算内に収まりました。

元の間取りを踏襲した談話室
元の間取りを踏襲した談話室
 6ヶ月程の工期を経て昨年2月竣工、4月4日から営業を開始されたところです。できあがってみると、生まれ育った元の家の雰囲気が残り、それでいて前の家よりもずっと良い感じがし、機能的にも使いやすい、想像以上の出来映えでした。この家で育った叔母が、建物が壊されるのは寂しいけれども、元のイメージがたくさん残っていてうれしいと言われたそうです。宿泊客にも好評で、田舎のおばあちゃんの家にいるような気がして落ち着くとのこと。3割を占める外国からのお客さんは特に宣伝することなしにホームページをたどって申し込まれるそうです。また、近年ユースの利用客の年齢層があがる傾向にあるそうですが、50代、60代、70代の方も多く、やはりやはり喜んで頂いているそうです。
 ユースの経営には不安もあったそうですが、奥様ともどもご希望された京都らしく、元の建物を生かした建物で、多くのお客さんにおいでいただき、よろこんでいだき、忙しいけれども充実した日々を過ごされているとのことでした。この建物に大切に残され再生されたご当主の生まれ育った思い出や記憶を、訪れる方々も肌で感じ、ご自分の記憶と重ね合わせて思い起こすことができる場となっているように感じられました。
2009.3.1