• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家再生研究会

家族4人で町家に住まう──上京区・Nm邸

内田康博(再生研幹事)

電気屋さんに磨かれて
輝きを取り戻した入口照明
 今回は、30代の若い夫婦が町家を購入して改修し、子供2人と家族4人で暮らしはじめるまでの経緯をご紹介します。
 今年の1月下旬、作事組宛にホームページを通じて町家改修の相談申し込みのメールが届きました。急を要するとのことで、早速担当者を決め、2日後の土曜日に作事組事務局にお出でいただき、詳しくお話を伺いました。内容は次の通りです。

現在、町家を購入して改修し、住まいとすることを検討している。
銀行融資を申込中で、これから本審査に入る。本審査の手続きを進めるためには改修工事費の見積りが必要とされ、改修内容と工事費について早急に相談したい。
これまで何社かの工務店に相談したが、町家の改修方法、耐震への配慮などに不安を感じ、町家改修の知識の豊富な方から助言を頂きたい。
改修する内容は、地震への対応と構造補修。風呂、トイレ、洗面、キッチンなど設備のやり替え。各室の仕上げ、造作など。

 融資の決定を急ぐ理由は、この4月に小学生になる上の子供が、今の住まいから新居に引っ越しをすると転校となるが、それを避けるためにあらかじめこの学区の小学校に入学するためでした。融資が確定していないため、学校説明会も両方参加しているとのことでした。
 早速、翌週の土曜日に現地調査を行いました。路地奥の町家で、トオリニワへの入り口の他に玄関があり、網代天井や円窓付の間仕切りなど数寄屋の意匠が多くみられ、昭和初期と思われる新築当時の建て主の趣味を伺わせます。
 調査にもとづいて急いで計画案を練り、見積りをしましたが予算を大幅に超過していました。改修範囲を見直し、融資額と手持ち資金をやりくりした限度額にあわせて工事費の目処をたてました。その後、2月下旬には融資が決定し、3月中旬に決済が済み、無事、町家の購入手続きが完了しました。
 工事は4月上旬からはじまりました。お勤めの都合で現場での打合せは土曜日に限定されました。現場の進行にあわせてキッチンセットやユニットバスなどのショールームと現場での打合せを毎週のように行いました。


2間続きの2階和室
 工事が進むにつれて当初は気付かなかった柱や梁の傷みが見つかりました。2階の床梁が蟻害にあっていたため1本丸ごと入れ替え、居間とキッチンの境の梁に微細なヒビがみつかり補強梁と添え柱で支え直しました。照明器具は予算削減のため出来るだけもとあった物を再利用し、工務店さんや電気屋さんの在庫を提供いただき、解体現場から頂いてきたりしました。古くなった照明器具も真鍮の錆を落とすと輝きが蘇りました。長年の使用で汚れていた土壁はこそげて塗り直すことで、建物全体が見違えるように美しく仕上がりました。障子紙は知り合いの御協力で、お施主さんが自分たちで貼り直しました。建物の、あらゆる部分に職人さん達の、そしてお施主さん自身のこころのこもった建物となりました。8月中旬、引き渡しの日を迎え、見違えるように蘇った町家で、家族4人の新たな生活が始まります。


居間から庭を見る

出窓付和室

2011.9.1