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京町家再生研究会

伝統構法のコスト管理―円町の仕舞屋で

末川 協(再生研幹事)

仕舞屋の町家のファサード

工事前の外観
 2年前の正月、若手の大工から小さな町家の改修に相談があった。お出入りの大店の店子さんから更にご友人のご夫婦を紹介され相談を受けたと言う。奥様のお母様が残された空き家を改修して移り住むことを検討されていた。それまでも北区の町家を借りて住まわれていた。

 場所は円町で、昭和初期型の2列2室型、間口3間小間、奥行き3間の正方形、ゲンカンと勝手口がわかれ、更に2階への独立した動線をもつ変わった形状の町家であった。1階オモテの出格子は数奇屋風で繊細でかわいらしい意匠であった。元の便所部分を洗面、洗濯場に改修し、浴室と縁側、便所が加えられていた。ハシリは東京炊事になり小さな火袋には天井が追加され、階段、2階座敷の長押等も後からの施工であったが、元の建物を損なうような改修はみられなかった。

 調査では中央梁間スパンを中心に東西に40mm程度の沈下があり、倒れは桁行きで東に5mm、南北はなかった。大屋根は築造後葺替えた跡がなく、2階座敷に雨漏の跡があり、下屋は北側の縁のみ葺替えが済んでいた。オモテ外壁のモルタル掻き落しが浮いており、コーキングで留まっている状態であった。電気設備は容量は小さいが盛り変えが済んでおり、下水管も塩ビ管に取替えが済んでいた。

 例によって町家を残す前提での必要な工事は大屋根、構造改修、下屋屋根、オモテ外壁であった。ご要望は、便所、浴室、ハシリ、洗面の改修と更に居室の寒さ対策。更に各室の仕上げで、畳表替、左官塗り直し。更に外観美装であった。プランの要る内容は勝手口を取りやめてハシリとして使うこと、浴室位置の検討であった。ここまでの条件整理は、町家再生の入り口で、まいどの基本動作である。

 さらに今回の課題はコストの管理、提示された予算が大変厳しかった。ここで伝えなければならないことにも順番がある。材料と手間には決まった値段があり、無理なものは無理なこと。改修の必要の後先、優先順位をぶれずに伝えること。費用対時間の捉え方が町家と今日の新築では異なること、80年永らえた町家をきちんと直せば次の80年を生きるだろうこと。

 一方、相談を受ける大工や設計にも初めに判断しないといけない事がある。町家は建てられた時代から、大店と借家の普請の違いで、そこそこにそれなりに、そもそものコストが違うこと。すべての改修に同じ手間と材料を費やす事は出来ないことである。その点を大工と確認しあい、必ずやりすぎのないように、必ず足らずのないようにフルスペックの見積もりを優先順に沿って説明できるようにした。各室ごとに内訳をつくり、相談者がご自分で判断できる情報をそろえた。贅沢を言わなければ、まだまだ使える設備や建具の選択肢、借家から移せる道具などを調査し、漏れの無いように伝えるよう努めた。

 とはいえ提示予算の2.5倍の見積もり、そこから先は相談者の判断となる。ご夫婦は、息子さんも含めて、十分時間を掛けて検討された。果たして3ヶ月後にお返事があり、提案のとおりで気持ちよく改修の依頼があった。間違いなく要領よく構造改修ができるか、緊張感をもって現場はスタート、決められた予算と引越しのリミットまでに工事を納める事が出来た。ハプニングは外壁の浅葱の色が少し明るすぎたこと。奥様が心配されたが、すぐに足場を掛け直して塗り直し、安心していただけた。建物を引き渡してから丸2年、丁寧な年始のご挨拶を今年もいただけたこと、有難く身が引きしまる。
2013.9.1