空き家が生きかえるとき 下京の長屋 改修現場見学会丹羽結花(京町家再生研究会)
見学会 一年ほど前、大家さんから相談があったときは、隣接する裏側のマンション計画もあり、この場所をどうしようかと迷っておられたようです。特にこだわりはないものの、価値があるならば再生してみてもよい、ということでした。再生研や作事組のメンバーが一軒ずつ拝見させていただくと、長く空いたままになっているところもあり、少々荒れていましたが、昭和初期のモダンな感じがところどころに見受けられます。5軒それぞれのデザインが少しずつ違っているなど、当時の大工さんのこだわりも感じられました。きちんと改修すれば、再び借家として魅力的な町家になることを大家さんにはお伝えしました。 実際の改修に踏み出すまでには少し時間がかかりました。情報センターのメンバーも交えて空き家対策に本格的に乗り出した京都市担当課との勉強会を開いて、大家さんと一緒に学びました。町家改修の基本的な考え方はもちろん、条例の基本、さまざまな助成など情報を共有していきました。大きなきっかけは、友の会メンバーでもあるSDCコンペの設計課題として、この長屋の改修を設定したことでしょうか。学生さんが現場を見て、大家さんに話を聞き、いろいろなアイデアを出しました。最終プレゼンも、大家さんと一緒に再生研、作事組のメンバーが伺いました。このコンペ案のプロジェクト名の一つを大家さんが気に入られたようで、見学会の当日には、「ようこそあけびわロージへ」と看板にして出迎えてくださいました。学生さんのさまざまな案やいきいきしたところが大家さんを勇気づけたのかもしれません。コンペに参加した学生さんもこの日はたくさん参加してくださいました。構造改修の現場を間近に見ながら、大工さんに質問し、若い人たちが学ぶ機会にもなりました。大家さんがそんなひとりひとりにみかんを配ってくださったのも印象的でした。 計画中に唯一住んでおられた方も引っ越しされ、すべて空き家となった5軒を一体で改修することになりました。再生研でも作事組でも長屋一体を改修するのはほぼ初めての事例です。壁一枚で隔てられている家々がところどころあけあけになっているなど、日常では見ることのできない改修現場でした。長屋であっても、構造改修としては大がかりなものになっています。長屋を一軒だけ直す際、隣との関係が難しいところが多々あるようですが、今回はしっかりした構造改修ができ、安心な住まいとして再生されていることがよくわかります。 長らく空き家になっているところ、しかも数軒まとめて、となると、一度に再生へと踏み出すには、大きな力が必要です。さまざまな不安を抱える大家さんによりそいながら、私たちも多くの町家所有者が抱える現実や、金融機関をはじめとする社会の受入体制など、ともに学びました。こうして多くの人たちが関わっていることそのものが、大家さんの気持ちを支えているのかもしれません。特に若い人たちが関わってくださると、今後の町家の行く末に希望が持てるのではないでしょうか。大家さんが新しい一歩を踏み出せるように私たちができることは何か、大家さんと一緒に歩みながら町家再生を続けていく必要があることを痛感しました。 カフェにて討論 なお、見学会当日はその後、近くのギャラリーカフェに議論の場を移し、暖かい飲み物をいただきながら、のんびりえんえんと話が続きました。若い人たちの参加も多く、これからの再生活動に明るい兆しを感じた次第です。 2016.3.1 |