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その3  碍子引き配線
 堀 宏道(作事組会員、電気工事)

<碍子引き>
昔の碍子引きは2線引き、ロウ引きとも呼ばれ、ノップという円柱の陶器(通称ニクロク)の絶縁体に電線をバインド線で巻き、軸組から浮かせて配線します。電線は銅線にゴム、その上にロウを染みこませた布等で四層に被服され四種電線と呼ばれていました。中にはアルミ線もありました。これらの改修工事ではVAケーブルに取替えをします、理由は単に被服の老朽化だけではありません。明治と今日では電気製品の総電力はまさに桁違いで,根本的に回路設計が異なるからです。昔は1件で1回路、2回路で済んだものでも、今では平均12回路から22回路の分電盤となり、エアコン、レンジ等の専用回路を省いても、1階と2階、表と裏と分ければ4回路、さらにそれぞれを電灯とコンセントに分ければ8回路となります。これを分岐回路と呼び、多く取ればそれだけ1回路の負担は少なくなり、ブレーカが飛びにくくなります。
分電盤の回路数が増えれば主幹、引き込み幹線も太くなります。


ノップ碍子
一般的な
ニクロク(296)
廃止された
タカロク(高6)

ガイ管
壁貫通、線交差用

クリート
電線を挟む、
ヨットのロープ掛けと同じ意味
<碍子引きの施工>
しかし、よく考えれば碍子引きの<碍子>そのものには非はなく、単に電線の支持材、今日のVAを止めるステップル(股釘)や配管の固定のサドルの様なものです。今回の改修工事では配線を全面改修したうえで、電灯回路の容量の固定された部分だけで平成碍子引き配線の再生を試みました。

 通常工事では、隠蔽配線ですが、碍子引きは施工順が逆になるため、施工業者との綿密な打ち合わせが必要。。(通常左官工事の前に配線しますが、碍子配線部分は器具取付時と同じ仕上がり後に施工する)
<碍子が光った>
碍子をいったん取り外して、洗剤で洗います。店のおじいちゃんに洗ってもらう。こういう作業は年寄りは隅々まできっちり丁寧にしてくれる。「陶器製のネジはかなづちの柄の方で軽くたたくと簡単に回る」とか昔の知恵も付け足してくれる。

さすが陶器製!何十年と経つのに真っ白に光沢が蘇りました。
<意匠>
VA配線の露出では気がねして、端っこを這わせていたのですが、、真っ白いキャンパスに絵を描くごとく、洗い上がった黒い大和天井のど真ん中を堂々と走らせました。電気工事にも意匠、センスが問われます。両線とも黒色とか赤色を使えばという話もありましたが、これは電線を無駄にすることになるので、VAを裂いてIVにして、そのまま白黒で使いました。中性側もわかりメンテにも良いと思います。
<手間>
今回はどれほどの手間(労務費)がかかるのか?も把握するべく事項。VA配線と比べ4,5倍の手間かなと思いつつ、作業してみました。当時(碍子引きからVAに変わったころ)電工はもう2度と碍子を打つことは無いと思ったに違いない、1本1本にこんな手間を掛けていたのだ。しかし、みせ,ゲンカン,ダイドコ,走りにわ,火袋の電灯で結果的にはプラス1日ほどの手間でおさまり、想定外に可能範囲かなと思った次第でした。
今までどんなに綺麗にVAを配線をしても、露出では喜ばれなかった。  「しゃーないなー」と。 かといって隠蔽配線にしてみても、<見えない>ものを褒めようがない! ところが今回の碍子引きは家主のA様に「とっても良い」と喜んで頂いた。プラス1日の苦労は一言で報われました。
<碍子がない!>
ただ残念なことに材料となる碍子やシーリングの在庫は無く、解体で1個づつ取るのも手間がかかる、格好の良いシーリングは町の骨董屋ではびっくりするような価格。しかし何でもあるのが昨今のインターネット のヤフーオークション。結構本物がやすく出る時があります。
<照明器具と合わせる>
ガラスセードはプラスチックの引っかけシーリングではなく、やはり陶器のシーリングとセットで一段と映えます。(写真右)
またガラスと陶器の器具は今日のインバーターの器具と比べ故障も無く、割れない限り何十年も持つことでしょう。
けっして骨董趣味的にはならぬ様に、シンプルな物が良いでしょう。

NU邸では他の室で付けた照明器具(3万円以上)の物より、ガラス皿セード(写真右)をご主人が気に入られ、1階のハシリにおさまりました。