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京町家作事組

「お出入り」のはなし
堀内 健(作事組理事)

●「お出入り」とは
 「出入り」という言葉は耳慣れない方もあると思いますが、東映の「映画」に出てくる様な事とは違います。
 平たく言えば「お得意様の仕事を常時している業者」となりますが、実はもう少し深いものがありますので、簡単に説明します。
 京都の場合約30年ほど前までは、約40%ほどが借家で、家主と借家人、店子といった関係が長年続いてきました。

 大店に「出入り」が出来る(許される)棟梁は誇りでもあり、現在のような情報化社会でなかった時代の一つの「信用カンバン」でした。
 出入り条件は「棟梁」の人格が全てで、次に知識・技となります。
 借家の保全、本家の改修、大改修などが主な仕事で、特に数年に一度の大規模改修などは、お祭り騒ぎで、各職方にとっては腕の見せ所でした。
 しかし、「母屋には素材で、借家に良い材料で」と言われる大店も多くあり、「お金をもらう所には、それなりに」という京都人らしい見栄張りも忍ばれ、現在「借家建て」の多くに、表面は「りっぱなもの」が使われているのは、そのなごりです。
 大店3軒得意先(出入り)あれば、生涯仕事があったと言われる位、昔は「一業者」制が画一化され、またそれほどの信頼がありました。

●主(あるじ)と奥方
 主は本家の仕事打ち合わせ時以外はほとんど姿を見せず、打ち合わせ時も用件だけ言ってそそくさと帳場に戻られ、細かくは指示が無かったようです。
 それもこれも「棟梁」との信頼関係から成り立ち、「お任せ」だったからだと思います。
 本家のことも、別宅のことも、借家のこともほとんどが奥方様との打ち合わせ(?)で、進められるようでした。
 しかし、主は見ていないようで、しっかり「材料の良し悪し」を見抜き、適材適所かどうか、判断できる「眼」を持っておられ、見識高く、語らずとも「棟梁」の采配が試され、主の思惑にあっていれば、永年に渡り「出入り」が許され、ますます信頼関係を築くこととなります。
 奥方様は日ごろは「おとなしい」雰囲気のような方が多く、しかし当家の敷地に「誰が、何人入っているか」等は良く知っており、境界やお蔵(お金)のこととなりますと、毅然とした対応で、他の者を圧倒する迫力がありました。
また、荒仕事や汚れ仕事の帰りには、丁稚には「風呂代」といって、少量の小遣いも忘れずに渡される様な末端までの「心使い」が、色々な意味で、財産保全は奥方様の役目だったようです。

●冠婚葬祭
 昔「冠婚葬祭」は全てと言っていいくらい「家」で行い、大店では店子や借家人の祭祀も大店の間を借りておこなった事もよくあったそうです。
 棟梁は一目散に駆けつけ、言われなくても、建具を外し、急場しのぎの台をつくったりと、黒子の立場で各職人に指示をだします。
 日頃から出入りしている為、屋敷図はもちろんのこと、蔵の所蔵品まで棟梁の頭の中にありますので、そのようなことができるのです。
 「○○蔵の何処に何がある」とすぐにいえるのは、奥方様と棟梁だけだと聞いていました。
 また近隣での揉め事やあらそいごとは、大店を巻き込まず、そうっと「収め」、小遣いでも渡して穏便に収めると、後日番頭さんがその倍ほどの金銀をこそっと置いていかれた様に聞いています。

●維持
 「家は生き物」と言われます、また住まい側も加齢により、家族構成も変わります。
 現在昔のような、大店(又は施主)と棟梁との関係が希薄になっている地域もあるようですが、微細工事を続けることが「永続住まい」をつくりあげていくことになるかと思います。
 住まい側も施工者側も、気軽に声を掛け、訪れる様な時代に戻れば良いかと思います。