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京町家作事組

左京・Td邸


アトリエRYO 木下龍一 


T邸は、明治25年上棟、南側にとおりにわ、北にみせ、内玄関、だいどころ、奥の間6帖の一列4室を持つ典型的京町家である。おもしろいのは、三代前の建主が医者であり、隣家を含めてここを医院として使っていたという、職住一体の歴史的記録が修復中に随所に発見されたことだ。作事組では、依頼があって調査する場合、大工、左官、瓦屋、設備家等と設計士が共同作業することにしていて、屋根裏から床下まで、構造の歪み、痛んだ箇所、環境条件とその影響、構造補強の必要性や方法、計画の方向性に至るまで、実測図に現状をすべて記録し、改修方法を検討し、再生計画をまとめてゆくことにしている。全作業を一貫して実践的に行うことがとても重要である。施主にも調査記録をみてもらい、要望とのすり合せを行うため、認識としての条件に矛盾が持ち込まれることはそう起きえない。

 本計画では、一階の内玄関4帖を台所に統合し、リビング・ダイニングにしたことと、二階の4帖を寝室にまとめた以外は、基本的に伝統的間取りと、既存の建具を再利用する方向で計画は進行した。施主の最大の関心は、吹き抜けの走りにわを明るく暖かいキッチンにしたいという事であったが、床暖下地や土タイル貼、既存土壁下地、色漆喰塗りにして、満足をいただくことが出来た。井戸とおくどさんを保存しながら、オールステンレス製のシステムキッチンを機能的に併設して、側繋梁(かわづばり)の上からトップライトが降り注ぐ空間には、新築住宅に得難い、落ち着いた雰囲気と伝統的なダイナミズムが甦った感がある。とおりにわの奥の通し柱と胴差が腐りきった便所と浴室は、半解体して新材で補足し、新しい設備と共に主屋の構造体に一体化している。前栽の奥には、成長した3人の子供達の為に、独立した離れを新築し、次世代への継承のプログラムを付加出来たのは幸いである。通りに面したファサードは、原則的に調査時の状態に修復しているが、厨子二階のムシコ窓は、創建時の形と黄大津壁仕上げの色に復原して、町並み修景に寄与することになった。

2002/2/23