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京町家作事組

土蔵再生で魅力ある路地に …祇園石塀小路Um邸


翁美知男(翁左官工業、作事組会員)


土蔵塗替え工事にあたって
 石塀小路に面して建つ土蔵。大正初期に、現当主の祖父によって創建された。当初は東西に建っており、戦中に90度回転され今の南北に移動された。前の道路は当時個人の庭であり、よって「蔵」により袋小路になっていた。戦中に自費で蔵が移動された要因は、奥の居住者の方たちの避難経路をとるための配慮、であったと当主からお話をお聞きして納得ができた。
 今も「Um氏の私道」であるが、環境を考慮し板石を敷かれたようだ。
 さて蔵には道具蔵・米蔵・繭蔵・または作業用の醸造蔵・藍蔵等があるがこれはめずらしく石塀小路の借家のための道具蔵である。外壁の塗替え依頼を受けて、現地調査をした。永らく手つかずの状態で、壁はトタン板が張ってあり、かなり損傷がはげしいのではないかと思われた。また、屋根上の櫓(最初は屋根は無く、天体観測場であった)の壁はモルタル塗りで、一面に蔦が被っていて下地の状態が判断しづらい状態だった。
外観(改修前)
  外観(改修後)

 いよいよ工事が始まり、足場組みが済みトタンがはがされて、以前の「しっくい壁」が顔を出した。想像以上に、何カ所も雨水等による損傷が見受けられる。主な原因は、瓦のズレと割れからの雨水の浸入ではないかと思われる。台輪や壁がズレ落ち、穴が開いて下地竹部分にまで水が入り込んで、腐って欠落している。塗替えを行う場合、表面上には問題がなくても、中間層で土が弱っている事がある。その場合新しく塗り重ねた土の強度に引っ張られて、脆弱な所から余分にはがれ落ちてしまう場合がある。それを考慮して注意深く、はがしていく事が重要になる。
 上塗り部分から中塗り・下塗り・荒壁下地まで順次、強度・傷み具合を確かめてコサゲていく。その後、下地竹の補充・補強・結束・荒土(コサゲ落した古土の良い部分と新しい土・藁を混ぜて使用)を塗り、乾燥を待って従来の中塗り下まで、何度も塗り重ねていく。塗り足した部分には密着を良くするため寒冷紗等を貼り、刷毛で目荒らしをしておく。乾燥後、全面下塗り、続いて中塗りをする。そして雨・ほこり・疵等の養生をして乾燥を待つ。この時あまりきっちり囲ってしまうと、通風が出来ないので乾きにくい。また逆に風が通り過ぎると、冬場は凍てる原因になり、夏は直射日光を浴びて、壁土が乾燥しすぎて強度を損なう。その時期の気候の判断が大切になる。
 庇の天井は屋根の銅板が老朽化して穴が開き、そこから雨水が入って板が腐っていた。木摺を新しく取替えてもらい、ラス張りモルタル下地にして、軽く仕上るようにする。
改修前
崩れかけた、板塀。「はがれ」を止めるため、トタンが、張ってあった。
  改修後
白く輝く「漆喰」、壁の傷防止のため設置した「犬矢来」

 乾燥にあわせて、台輪・庇・窓・壁と順次しっくいを塗り上げていく。日当り具合により、塗面の乾燥を考えて塗っていく。ハト小屋の工事は、最初に絡まっている蔦を取るのが大変な作業であった。部分補修後、下地補強用セメントペーストで全面下塗り、乾燥後、粗しっくい塗りをして、クラック防止用メッシュを貼り乾燥。乾き具合を見計らい、しっくいで仕上げる。
 腰壁(正面及び東面)は、付け送りした土壁下地に、薄く接着モルタルをなじませて塗り乾燥させ、モルタルで下地調整をして目地棒を入れ、花崗石を塗込んで洗い出しをして完了。
 今回の工事で、物理的な(風雨・凍て・陽当り等)環境と施工時期・期間が仕上がりの大きな要素だと感じた。
中目土塗り作業
小舞下地補修、補強 本葺瓦施工

 時には荒壁または中塗りのままで、一年ほど使ってもらい、施主共々ゆっくりと経年変化を楽しむ。近頃よく云われる〈スローフード〉ならぬ〈スロー建築〉があっても、良いのかもしれない。
(設計・アトリエRYO/施工・堀内工務店)