若い住み手の町家改修──下京・Mh邸設計・末川協建築設計事務所/施工・アラキ工務店 ○改修のポイント Mh邸は、丹波口駅近くの昭和3年築の町家で、4軒+4軒の連棟の一つ、ただし規模は大きく4.5帖、4.5帖、6帖の一列にトオリニワも一間、ハシリの土間から棟までは8m近い高さがある。若い独身の施主は、この町家の購入にあたり、傷みの状況や改修費用について作事組の所見を求められた。幸い大規模な改修がされておらず、構造も健全で大屋根の瓦もしばらくは大丈夫と判断出来、急ぎ必要な手当ては縁と水廻りの板金屋根、前栽の鋤取りと排水処理であった。1階のミセが3帖と半間の通路に分けられていたこと(後からお伺いすると「組」事務所に使われていたそうで)、左官壁の上の合板貼りやトタン貼り、4箇所のアルミサッシを除き、主屋はオリジナルを良く残していた。
Mh氏は打合せごとに精力的に町家を学び、自分ができる工事などを荒木棟梁から逐一教わり、火袋の清掃、古建具の選定、型板ガラスの補修、照明カバーや傘の調達、器具の作成、床や家具の柿渋塗り、柱や枠材のベンガラ塗りに取組まれた。日曜日の朝から棟梁の工場で選ばれたこだわりの格子戸やガラス戸が、1階で6層に並ぶ様は壮観で、白熱灯が様々なガラスに美しく映える様も施主の思いの通りか。 ミセニワの壁の合板をはがすと蟻害が見つかり心配したが、幸い柱一本の根継ぎだけで済み、なぜか南の隣家に抜ける板戸が現れ、そこにも左官の下地を追加した。北側の隣家の界壁が予想外に薄く釘が抜ける程で、テレビ棚の背面と2階寝室の押入には遮音材を追加した。新千本通の新しい真鍮格子がピカピカに光り、通りがかりの人に「頑張ってはるなあ」などと覗き込まれるのは有難かったが、松原通からも改修中のファサードが一目で判り、目立ち過ぎたかと心配した。幸いこの半年で光沢は落ち着いた。ご近所からの飛び込み見学では「うちの昔のハシリと同じや」「ここらの井戸は専売公社の地下水汲み上げで枯れて埋められたんや。工場がなくなったからまた湧くかもしれん」など。 今回断念した2階の外壁塗り直しや、やがて必要になる瓦屋根の改修、水廻り棟のやり替え、将来家族が増えたときの小屋裏の利用、井戸の再現など、若い施主にはこの町家での夢が続く。古いものを愛するこだわり、たっぷり悩んだ後の判断の早さ、見る目の確かさに住みこなすたくましさを得て、ここでも町家が世代を超えて継承されますよう祈念します。 末川 協(作事組理事)
2006.5.1 |