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京町家作事組

いずれは自分たちが住むための手始めの改修工事──下京・Md邸貸家


施工・堀工務店

◎改修のポイント  
 少し狭い私有道路に面し、築年不詳の2階建ての町家で、元は二戸一だった長屋の残った一軒。かつては学生下宿用に室貸しをしていた。
 過去の改修では揚げ前や歪み突きをせずに傾いたままで、改装工事がなされていた。今回の工事対象は、奥の2室と縁側及び庭であった。工事に取りかかり床をめくると、思ったよりも傷みがひどく、過去の簡易な根継ぎなども蟻害や腐朽で原形をとどめない状態だった。

蟻害にあった縁框

蟻害や腐朽で原形をとどめない建物の足元。

土が縁框ぎりぎりまで盛られ、水が床下に浸入し、縁の下の通気も悪くなっていた。

隣家との敷地境界部分。写真右の柱が庭との境。
 足元が傷んだ原因のひとつは、大量ではないものの、隣の屋根の雨水が境界の隙間に流れ込むことであった。もうひとつは庭の地盤が永年の間に嵩高くなり、行き場を失った雨水が床下に流れ込み、縁框や柱の足元さらにはガラス戸の裾まで腐朽させていた。隣の屋根については施主負担で直し、一番の故障原因である庭は、土の搬出や池の撤去を伴うため、庭師に任すことになった。傷んだ杉皮塀も一新し見違えるようになった。
 施主は現在近所にお住まいであるが、将来はこの町家に住みたいと考えておられ、今回見送ったハシリ、便所、及び浴室の水廻りの改修を計画しておられる。

堀 栄二(京町家作事組理事)
 ◎庭について

水はけもよく、明るくなった庭。写真左に排水溝も兼ねた砂利が見える。
 庭は、四方を高い建築物に囲まれ、日照がほとんど望めない。その上シュロチクが伸びて、庭にふたをした状態になり、一層暗く風通しの悪い場所になっていた。さらに、土盛りと池によって庭の湿気が建物床下に入り込み、住居に様々な悪影響を与えていた。そのため、建物の改修と同時に、庭の改善が欠かせない重要なポイントになっていた。
 まず、植栽を抜き、池を撤去し、土中を確認した。池の設置や排水の為に、コンクリートが打設してあったが、破砕して処分した。掘削時に出てきた瓦、石なども共に処分した。土は、改良すれば植栽には問題ないものだった為、過剰分とガラを取り除き、整地して備えた。
 植栽地と建物の間に土留めと通路を兼ねた石畳をL型に敷設した。施主は、狭い庭での貴重な植栽スペースが減ることにためらいがあったが、雨水がかからない軒内は植栽には適さず、また園路により管理しやすい庭になる為、合意していただいた。板石は庭に向けて勾配をつけて施工し、建物と板石との隙間には排水溝を兼ねて砂利を敷いた。
 庭には既存の排水枡があった為、植栽地の表面排水、樋の雨水、水栓の排水をつなげた。
 植栽はジンチョウゲを植える以外は任せていただいて、「しっとりした町家の坪庭」よりも「日陰でも四季の変化を感じる明るい坪庭」を目指し、花木や下草を多種植え込んだ。植栽に先立ち、水はけ良く土壌を改良した。
 6月に再訪したところ、今年は雨が多く、植栽地は灌水の必要が無いようだったが、床下への湿気はしっかりさえぎられているので安心した。
 施主は草木の四季の移ろいを楽しみながらこまめに手入れして下さっているようでとてもうれしく思った。

鈴木里美(京都景画・京町家作事組会員)

2006.7.1