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京町家作事組

七つかまどのあるトオリニワを生活の中心に ──中京・Sg邸


設計・(株)クカニア・内田康博建築研究所/施工・堀内工務店

◎改修のポイント  

生活の中心となる七つかまど
フレームの上にガラスの天板を置く予定。
Sg邸は御前通りから妙心寺道を西に向かって南側に位置する。蔵の階段の裏に「宝永七年(1710)寅九月吉日 菱屋 六兵衛」の墨書があり、主屋もその頃の建築とすると、築3百年程になる。現在までいく度かの改修を経て大切に維持され、国の登録文化財となっている。記録によると、もとは西ノ京の質屋として1反ほどの敷地に3棟並びで建てられ、一体として使われていた。卯建があるのは質屋としての防火の配慮と思われる。後にこの地の庄屋であるSg家に譲られ、近年の区画整理で一棟だけが存続した。一列4室型の町家の形式であるが、巾二間二尺の広いトオリニワに勾玉型の七つかまどが据えられ、農家の雰囲気も持ち合わせている。
 現在は新築したハナレを主な生活の場とされているが、将来は二世帯が独立して暮らせるように、主屋にも風呂トイレを設け、トオリニワをダイニングキッチンとし、あわせて構造補修をすることが求められた。

改修前のトオリニワ

細い母屋が見える。壁はボードで覆われ、内部の土壁の傷みは予想以上だった。



改修後のトオリニワ

天井板を張り、新たな母屋を添えて、束と貫で補強。壁はボードを剥がし、真壁として柱梁を露出している。



改修前の木置き

物置として使われていた。天井が低く張られ、壁はボードで覆われていた。

改修後の木置き

梁を見せ、天井を張り上げた。壁は真壁に戻した。
左右2本の登梁は後年の追加。

 生活の中心となるトオリニワは、南側の開口を広げ、天窓をつけて明るい空間とした。床は土間の雰囲気を残してタイルを低く貼り、床暖房を入れることで寒さに対処した。その真ん中に据わる七つかまどは、全体をガラスのテーブルで覆うことで存在感を増している。
 内壁はボードが張られて大壁となっており、見た目は問題ないが、隠れた柱や土壁の状態が不明で、腐朽などの心配があるため出来る限りボードを剥がして真壁に戻すこととした。剥がしてみると雨水の浸入などで土壁が予想以上に傷んでいて、木舞が露出している部分もあり、大壁とすることの害を再認識させられた。
 大黒柱と小黒柱に架け渡された胴差に蟻が入り、一部を切断して入れ換えた。胴差の下には柱を入れて支え、上部には梁を追加して補強している。

改修後の2階オクノマ
低い天井を撤去し、梁と母屋を見せ、天井を張り上げた。 奥にみえる登梁は今回の追加 ガラス瓦を使用して明るい空間とした。

 二階のオクノマと木置きは低く張られていた天井を撤去し、梁を露出して天井を張り上げることで空間を広げた。天井裏の主要な梁には横や下に補強の梁が添えられ、後年の改修の工夫が見える。それに習って、トオリニワの梁の上に束を追加し、縦横に貫を通して補強した。2階オクノマには梁を一本追加している。
 今回の改修を通じて、先代から受け継ぎ、生まれ育った町家を活かしたいというご主人の希望と、そこで現代的で快適な生活を実現したいという奥様の希望に、少しでも近づけていれば幸いです。

内田康博(作事組理事)
2006.11.1