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京町家作事組

西陣織屋建貸町家 その後 ──上京・Dg邸


設計・内田康博建築研究所/施工・堀内工務店

 半年前に「京町家再生の試み」の欄でご紹介した事例である。借家人が退出して2年以上経つが、改修方法や借家人探しなど、どうすべきか迷っていた折、京町家友の会を通じて、京町家情報センター、京町家作事組との出会いがあり、京町家再生研究会から生まれた京町家ネットの連携により町家が再生されることとなった。今回は、改修のポイントと新たな借家人の入居後についてレポートする。

◎大家さんによる改修
 改修の役割分担として、屋根、外壁、主要な構造体、水周りは大家さんの担当、内装、電気設備は借家人の担当とした。
 この町家は東面し、南北両側に路地があり独立して建っている。北側に見た目にわかるほど傾き、バットレス2本がボルトで取り付けられていたが、足元は腐って浮いていていた。バットレスは町家の構造形式と合わないので撤去し、歪み突きの戻り止めとして押入れの側面の壁に合板を張った。また、小黒柱が下がっていたため揚げ前を行った。
 屋根は傷んだその都度部分改修が行われていた様子で、瓦は大きく波打っていた。今は雨漏りはないが、借家人が入居後に改修するのは大変なので、思い切って野地板と瓦は全て新しくし、垂木も一部入れ換えた。


改修前
北側外壁の焼杉板

改修後
北側外壁の焼杉板

 北側外壁の焼杉板はかなり傷んで土壁が見えていた。トタンを張れば安上がりだが、一番長持ちして美しい焼杉板を張った。また、正面の虫籠窓のトタンを撤去し、漆喰を塗り直すことで、外観全体が美しく落ち着いた風情をとりもどした。
 1階ミセの上部は外からみると虫籠窓の内側にツシ2階があるように見えたが、天井裏となっていて内側からは虫籠窓が見えなかった。床を張ってツシ2階とするか、天井を撤去して吹き抜けにするか迷ったが、入居者の希望で吹き抜けとすることとした。
 トオリニワは座敷レベルに張られていた床はそのままとしたが、天井を撤去して火袋を復活した。瓦のトップライトは再利用できなかったのでガラス瓦とした。天井が高く、明るく気持ちの良い空間となった。
 風呂が無かったので、トオリニワの奥の土間にユニットバスを設置し、洋式に改修されていたトイレと洗面台はそのままとした。

◎入居者による改修
 改修工事中に決まった入居者は外国人の建築家ピーター・ボロンスキーさんと日本人の奥様で、大工や左官の仲間を集めて改修を進めた。
 まずオクノマに張られていた天井を撤去して織屋建ての作業場の天井の高さを復活した。次に木置きにつなげてトオリニワ上部に一部床を張り、2階ナカノマと連続させた。トオリニワに面して壁をつくらず、押入れの中にあった箱階段をそこに移動して、1、2階を連続した空間とした。
 1階ミセ、オクノマ、作業場、トオリニワが吹き抜けとなり、全体に天井の高い気持ちの良い空間となった。冬の寒さと夏の暑さに備え、大家さんにお願いして屋根全面に断熱材を施工しているが、その代わり、ミセ上部の荒壁塗りは入居者が引き受けた。入居後夏を越し、冬を迎えたが、やはり断熱材の効果は大きく、夏はあまりクーラーを使わずにすみ、冬も今のところ石油ファンヒーターひとつですんでいるとのこと。もう少し寒くなってもホットカーペットがあれば過ごせそうとのことで、町家は意外と住みやすいことを実感されていた。1階のミセとダイドコは事務所として使うので、畳を撤去し、フローリングとしている。
 夜帰って来た時に、格子と虫籠窓からもれる灯りがとてもあたたかく、吹き抜けの高い空間や、木置きの狭いけれども落ち着いた空間などが気に入っているとのこと。町家の心地よさを楽しんでいる様子であった。


ミセから格子と虫籠窓を見る
 
入居者による改修中のミセ吹き抜け
内田康博(作事組理事)
2007.1.1