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京町家作事組

よみがえった仏具店 ──下京・八木仏具店


設計・アトリエRYO/施工・山内工務店


ファサード(改修後)

 8月4日、東本願寺前、八木仏具店が改修オープンした。上珠数屋町通に面し、西の不明通側にトオリニワを配したこの町家は、本来表屋づくりの1列4室型の2階屋であったと思われる。大正時代、上珠数屋町から下珠数屋町まで、不明通と烏丸通に挟まれた町家街区が区画整理でなくなり、烏丸通が緑樹帯を挟んで拡幅され巨大な門前広場が出現する事となった。その際、八木家先々代がその出来事を記念して、木造3階建入母屋造赤壁塗の特徴ある町家に大改造したと伝聞されている。その内容は、北の通りだけに面した店先を玄関ニワや東側の坪庭と走りニワの一部を統合し、北側に4間、西側に5間のL型開口部を構える店に拡げたことである。さらに主屋2階を構造補強して通し柱を上げ、3階に2室を増築している。西方からみると、入母屋破風をつけた表屋と、裏の土蔵の切妻破風の中央に入母屋銅板腰葺の軽やかな数寄屋風三層の楼閣が立上り、周囲に際立つ景観建造物に脱皮することに成功した。そのため、2年前に成立した京都市景観条例によって界隈景観建造物に指定されることとなった。しかしながら、戦後幾度かの改造が加わり、店の開口部にはアルミサッシュとシャッターがつけられ、店内には合板が貼り廻され、蛍光灯が行列、ガラスのショーケースが並べられた状況からは歴史的意匠の雰囲気は失われ、時代のニーズにそぐわない感があった。そして各所に漏水があり、水廻り部分も老朽化し手入れを待つ状態だった。

◎改修のポイント
 以上の前史を踏まえ、改修方針としては、(1)構造、(2)意匠、(3)住機能の修復再生を達成することであった。構造と意匠は密接に相関していて、両者を同時に解くことが要求された。まず表庇の壁面線を当初の位置に戻し、鋼管柱で差し換えられていたところに檜柱5本を復元し、必要な土壁を再現する。大正期に入れ替えた太いヒトミ梁(H500×W195)の西端から隅木をとり、矩折れに胴差しを後退させ、西側庇を復元して幕掛けを廻す。意匠的には北側に出格子と引違いガラス戸、西側には飾窓とバッタリ床几を構えて伝統的な軒下を演出したが、実際構造的な柱列と壁面が、重厚で力強いオダレ庇の空間を作り出す要因となっている。基礎の葛石は、地盤下にコンクリート布基礎を打ち直して古花崗岩を敷き直し、柱を直立てしている。外観の修復に関しては、3階南にあった物干台を、華奢な欄干に取り替え、重い物干台は2階結界裏に設置したこと、また、蔵前の駐車スペースは、勝手玄関とユーティリティ部分を全開放出来る杉板戸を建て込んで、大塀で隠す工夫をした。寛政2年(1790年)創業の越中屋八木仏具店が、大正期の変革を乗越えて今に伝わる特徴ある京町家の重要景観建造物として、将来に伝わって貰えればありがたい。


北西角オダレ庇を天秤梁にて補強(改修中)

西面下屋を深くするため胴差をセットバックする(改修中)

南面勝手玄関の上物干台設置(改修後)
木下 龍一(作事組理事)
2007.9.1