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京町家作事組

こだわりの町家改修─中京区・A邸


設計:潟Nカニア/施工:活タ井杢工務店

◎改修のポイント
 昨年の夏前に始まった改修工事。
 本年の5月16日の引き渡しの日の晩、すべての職人が改修した三間続きの座敷に招かれ全員で完成を喜びあった。じっくりと時間をかけ、その時々の最善の方法をとる丁寧な仕事となったため、大変工期の長い工事となった。そのため我々も含め、職人達のその喜びもひとしおだった。
 2列3室型の大塀造りで、1階に7部屋、2階に4部屋あり、2階の1部屋は洋間であった。
 蔵は宝暦13年(西暦1763年、245年前となる)7月建築。母屋は、築年数は不詳であるが、昭和3年に屋根の大修繕の棟札が出てきている。屋根のかかり具合等からその大修繕にて2階の火袋より北側は、背を上げる等大幅に手を入れたものと想像する。
 施主は、東京在住。この建物は、京都という土地に茶事等で人を招くことに使われる為、改修方針は、昔の通りに戻しつつ、客人を招く空間とし、蔵の横に、茶室(小間)を建てることとなった。

ゲンカンニワ
ゲンカンニワ

提灯立て
提灯立て
トオリニワ
トオリニワ

 元に戻すため、走りは火袋を復旧し、おくどさんを新しく造り、ふさがっていた井戸を掘り、なくなってしまっていた井戸囲いも新たに造った。また、石の流しを新たに設けるなど、徹底して昔の姿を再現した。
 また、施主のこだわりによりコンセント・スイッチ類は、座敷の中には設けず、元のままにダイドコに集中させた。エアコンなども壁や天井に埋め込み、本体がみえないようにし、照明器具は、大正時代のものを探すという徹底ぶりだった。
風呂は、当初は、桧製の浴槽との要望だったが、使い方を考えると水漏れをするおそれがあるため、信楽焼製の浴槽とした。浴室の天井は、昔の赤杉の天井を残し、天井に合わせて壁も赤杉貼りとした。残した天井は、換気口が付いているなど、とても手の込んだものである。腰壁には、天然石のタイルを用い、木と石の空間に陶器の浴槽の映える、心地のよい空間となった。
 洋間は、元の天井を撤去し、折り上げの格天井を新たに造り、施主の母国より壁紙を取り寄せ、家具等も徹底してそろえ、施主らしさの詰まった、居心地のいい空間に仕上がった。
その他にも、表には駒寄を新たに作り、風情のなくなった玄関庭や座敷庭も、造り直した。工事が進んでいくにつれて、新たに造られたものが、まるで昔からあったかのように、建物と呼吸を合わせ始めるのが伝わってきた。
 施主のこだわりは、建築にとどまらず、祀り事の提灯立て・幔幕・暖簾等も生活に取り入れたいと要望があった。これらは、資料が大変少なく、人や店に尋ね、実際に現存するものを実測させて頂く等の試行錯誤を重ね造り上げた。提灯立ては、道路に立ち並び献灯の風景を作り上げるものだが、現状を考え、駒寄の内側に建てるようにした。提灯立てを立ててみると昔とは違うが、いい風情が出ていた。
 幔幕と暖簾には、紋が入り、施主のおもてなしの心が伝わってくる。幔幕は、お茶会の都度、玄関に下がっているのを見かける。
 遠方の施主のため、メールでのやりとりが多く、相手の真意が汲めているのか不安に感じていたが、大変気に入って頂けたようなので、安心している。こだわりのもった施主の仕事は、勉強させて頂ける事が多く、とてもいい経験となった。
なお、竣工後、夜にお伺いする機会があり、その際、座敷に古い大きな燭台に和ろうそくで迎えてくださり、障子のガラスにろうそくの光が反射し、幻想的な雰囲気の中、楽しい時間を過ごすことができた。本当に上手に町家を楽しんでおられ、工事をさせて頂いた者として、大変嬉しく思う。いつも施主には、日本人が忘れているものを発見させて頂ける。この町家では、今後も有意義な時が重ねられていくことだろう。

野間 文夫(作事組理事)

2008.7.1