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京町家作事組

町会所の構造改修とファサード修景 ─下京区・八幡山町会所


設計・内田康博建築研究所/施工・アラキ工務店

 八幡山町会所は祇園祭に山〈八幡山〉を出す三条町の町会所です。新町通りを三条から少し下がったところ、東側に位置します。新町通りの御池から四条の間は、7月17日祇園祭巡行時の山鉾すべてが通過する通りで、地域のまちづくりのなかでも「鉾のみちプロジェクト」の対象として重要な位置づけとなっています。京町家再生研究会は新町通りに事務局を置く縁から、明倫自治連合会まちづくり委員会の活動に協力しており、再生研を通じて作事組で町会所の改修の相談を受け、現況をみせていただいたのが2006年6月のことでした。
 町会所は3棟に別れ、他に1800年頃築の蔵と昭和30年代築のRC造の蔵、そして八幡宮の社があります。新町通りに面する建物は戦前から建っていた平屋に2階を増築したもので、中程の平屋は築約40年、さらに奥には元治元年(1864年)の大火で焼失した後に建てられ祇園祭の際にはお飾り場となる建物があります。奥の建物は見た目にも傾き、傷みもひどく、建て替えも検討されたとのことですが、十分改修可能であり、長く使っていただけることをご説明したところ、町会での1年間ほどの協議を経て、奥の建物を改修し、あわせて新町通りに面する建物と、中程の平屋のファサードを修景したいとの結論を受け、改修に取りかかることとなりました。


カズラ石を設置した様子
カズラ石を設置した様子

◎改修のポイント
 改修の中心は祇園祭のお飾り場となる奥の建物で、南側のビルに面する背面の柱列が最大48mm下がり、北側に最大48mm傾いていました。柱が下がったのは、ビルとの間から漏れた雨水でひとつ石の下の土が流されたためと思われます。また、伝統工法の町家にはあまりみられないことですが、南側の柱の下には土台が入り、それが雨水の湿気で腐朽していたことも一因です。柱の傾きは北側にのみ長く張り出した庇の荷重、部分補修を繰り返してきた屋根瓦からの雨漏り、南側に接するビルの工事の影響など複合的な要因が考えられます。今回の改修では、下がった柱を持ち上げる揚げ前、傾いた柱を垂直にする歪み突き、蟻害や腐朽で傷んだ柱の根本を取り替える根継ぎを行いました。また、南側の柱下で腐朽しつつあった土台は撤去し、棒状の石(カズラ石)を据えてコンクリートで固め、その上に直接柱を置きました。雨水の浸入を防ぐために屋根瓦は全面葺きなおし、南側のビルとの間は板金で雨水を防いでいますが、万が一の場合に備えて隣地との際にコンクリートの排水溝を作っています。また、垂直に戻した柱の戻り止めとして一部壁を新設していますが、新たなお飾りの場として利用されています。

改修前
改修前 新町通りから見る
改修後
改修後 電柱が右に移設された
改修前
改修前お飾り場
改修後のお飾り場
改修後のお飾り場 祇園祭の様子


巡行から帰ってきた八幡山
巡行から帰ってきた八幡山を迎える町会所

 新町通りに面する建物はアルミサッシとモルタル壁で現代風に改修されていましたが、「鉾のみち」にふさわしい伝統的なファサードとするため、町並みにあわせて1階は腰壁付の窓に真鍮パイプの格子とし、1、2階とも木製建具と漆喰壁としました。また、鉾の組み立てを行う広場に面する壁面は焼杉板張りとし、窓には縦格子を取り付けました。
 今年の7月には、新装なった町会所で飾り付けが公開され、祇園祭の伝統を守る八幡山町会所としてハレの姿を、多くの方々に御覧いただくことが出来ました。


内田康博(作事組理事)

2008.11.1