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京町家作事組

百年後へ受け継がれる町家改修─中京区・今井邸



設計・クカニア/施工・アラキ工務店

改修後ファサード
正面外観
  ◎「自宅改修にあたって」
 私は2年前、伯母から京町家を受け継いだ。
 私の曽祖父が明治39年に購入し、改修を繰り返してきた。今回、残されていた格子を使って出格子を復元し、イガミや壁の修復、庭の整備もした。
 建築様式から、江戸の末期か明治初期に建てられたらしい。建てられた当初から出格子だと思っていたが、実は元々は平格子であったことが改修中に判明した時は、本当にびっくりした。
 「家は語る。」私の知らない家の歴史を、壁が、柱が、建具が語ってくれた。語っている言葉を私に通訳して下さったのが、荒木会長であり、作事組や工務店の方々である。
 改修して百年持つ家にして欲しい。」これが私の当初からの願いである。イガミが直り、美しい壁を見て、「これでやっと50年分」と思った。「後の50年分」は、住み手がきちんと暮らすことであろう。
 何事も、守ろうと思わなければ守れない。急激な変化が常である現代は、特にそうである。人の住む家として、百年後も、この家が残っていることを楽しみにしている。
今井雅美(施主)


◎ 改修のポイント
 施主の改修にあたっての希望は、「住まい手が変わろうと、今後100年を生き永らえる家」。最初にお会いしたときの言葉が、今でも印象に残っています。
 ただ直すだけではなく、壊すのが惜しいと思わせるような、いつまでも住み続けたくなる気持ちになる魅力を持たすような改修が、今回の目的でした。
 改修にあたって、構造改修と快適性の向上の2つの目標を立てました。
 構造改修は、揚げ前、イガミ突き、ひとつ石の基礎補強に加えて、問題となっていた、外部からの浸水対策を施しました。
 これまでの長い期間の間に、道路も含めて周辺の土地が上がっており、雨が降ると、土間に水か染み出してくるという現象が起こっていました。解体を進めると、家の奥の方では、床下の地盤面が、隣地より30cm程低くなっていました。その為、外壁の柱を切り詰め、土間部分はカズラ石を入れ、奥の方はブロックで立ち上がりを作ったうえで、外部側を防水しモルタルで保護して、外部からの浸水対策を取りました。基礎の下から廻り込む水に対しては、土間に防水シートを敷き込んだ上で、コンクリートを打ち、対処しました。加えて、外部を出格子にする際に、床下換気口をできる限りとり、床下に空気を通すよう心がけました。
 東西に長いこの町家では、南北方向のタチを直しても、また元へ戻る可能性が高いので、既存の筋交いを撤去した上で、バラ板を打った壁を、町家に見合った耐力壁として数ヶ所入れました。
大黒柱の根継
復活させた井戸
側壁の修復
火袋のストーブ
 快適性の向上には、まず、光を多く取り入れました。暗く寒い町家に対して、火袋に明り取りのトップライトを増設し、壁を天井まで漆喰で塗り、天井板は白木を張るなどして、火袋全体の大空間を明るくし、火袋へ面した各部屋には、ここから光が回るように、開口を設けました。次に、外部に面する建具は、木製のペアガラス建具とし、屋根や壁、床をできる限り断熱し、その上で、火袋のあるリビングに薪ストーブを設置しました。このストーブは、取り込んだ空気を循環して利用するので、火の粉を煙突から出すこともない為、採用しました。家の中をじんわりと暖め、特に火袋に面した2階の部屋では、煙突からの熱も伝わって、心地よい熱が伝わります。
 外観の改修にあたっては、妻側の南北面にも焼杉板を張り、正面は出格子、虫籠窓、漆喰の壁、軒先の一文字瓦、銅製の樋などでまとめ、昔の町家が蘇りました。特に、再生した出格子は、保存されていた当時の格子を使い、出格子だった当時の面影を再現しました。
 これから、ここで快適な生活が営まれ、住まい手によってこの町家がいつまでも使われていくことを願っています。

野間文夫(作事組理事)

2009.3.1