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京町家作事組

受け継がれた町家を出会いの場へ ─伏見区 町屋の宿 「枩邑(マツムラ)」


設計・クカニア/施工・山内工務店

 
■改修のポイント
 伏見の街を南北に通り京へ続く道、京町通に面する母屋と離れの改修である。施主は受け継がれてきた町家を残していくことに強い思いを持つと共に、定年後、その町家を活用した第2の人生を計画していた。母屋は間口5間2列3室、歴史的意匠建造物に指定され、格子と虫籠窓が広い間口いっぱいに広がったファサードは昔の姿を残している。離れは間口3間1列3室、長い間郵便局として使われていた看板建築である。
改修後外観
改修後 外観 看板建築だった離れが母屋と連続した姿に

改修前 外観

 施主は、母屋・離れ共々、祖母の願いでもある昔の景観に再現することを望んでおり、計8間のファサードが実現したら町並みにインパクトを与える結果が残せるだろうと、皆で楽しみに計画の立案を進めた。
 元々住まいは別に構えていたため、母屋は通り庭とその続きの間を人々が集まるサロン的な使い方とし、離れは宿泊施設とバーを考え改修計画を進めた。計画を進めていくうちに、施主の気持ちが固まり、母屋・離れ共、各々1組を想定した宿にすることとなった。離れのバーは朝食サービス機能も合わせ持つホームバーとなる。
 今回の改修は、限られた予算とニーズに合ったものをつくり上げるため、改修する部分と、しない部分を明確にした。当初母屋の座敷周り等、北側に相当柱が下がり、欄間の入った垂れ壁は台形に歪んだ状態で補修されており、揚げ前をし、きちんとした改修を勧めたが、今回は断念し次回改修に譲ることとした。
 母屋は、台所が作られていた通り庭・火袋の復元、給排水の整備を、離れは、外観の復元・バー及び浴室・トイレの整備を重点的に行い、最低限の機能を満たした。解体中には、母屋火袋と離れのゴロンボに白蟻が入っているのが分かり、母屋は添え柱及び梁取替え、離れは補強する対策を講じた。

 工事が進む中、施主はできる限り既存の物を活用することを希望され、蔵から色々な宝物を探し出し、活用を望まれた。細かい細工の欄間を天井照明カバーとしたり、古建具を再利用したり、排水管掘削後の土間補修に延べ石や瓦を利用する等、現場で何度も協議をし、施主・施工者・設計が三位一体となって進めていった。徐々に出来上がっていく空間を眺めながら古い物が馴染んでいく様子にお互い共有の価値観が生まれ、完成に伴い皆の喜びとなった。
 旅館業営業許可のための消防・保健所の検査も通り、準備が整えばいつでもオープンできる状態になったが、今からの長い人生の楽しみ、あまりあくせくしないとの思いから、季節のいい春頃がオープン予定である。バーも大枠は決まっているが、メニュー等の細かい部分は、おいおい考えていくとの事である。
 母屋・離れ共、ゆとりのある空間構成のため、宿だけでなく、いろいろな使い方が考えられる。母屋の蔵は、現在も電気釜のある陶芸工房として利用されており、いろいろな顔を合わせ持った、施主の定年退職後の楽しみとして、人々の集まる場として生かされるであろう。町家の宿として、様々な出会いを経る中で、様々な形に発展する可能性をもった場となったのではないだろうか。
改修前 母屋通り庭
改修前 母屋通り庭
改修後 母屋通り庭
改修後 母屋通り庭
改修前 離れミセ
改修前 離れミセ
改修後 離れミセ
改修後 離れミセ
野間文夫(作事組理事)
 
2010.1.1