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京町家作事組

長屋建てで目指した構造改修─下京区・Og邸


設計・クカニア/施工・大下工務店


 棟梁塾一期で二年間学び卒業を経て、一期生最年少である私を作事組理事へと推薦して下さった同期先輩方の協力を得て、一期塾生一丸となり今回の改修工事が始まった。共に学びあった先輩方は頼もしく、講師の方々、塾長、理事長までもが現場を訪れて下さり、私共は『町家再生の技と知恵』『創意と工夫』の二冊を今一度読み返し、出来る限り学んだ成果の実現を目指した。
 場所は下京区、五条通りから少し入った路地奥、向かい合う厨子二階四軒長屋、北側に共同井戸用路地がついたその家は、ほぼ建てられた当時のまま残っていた。古材普請と雨漏りで状態は悪く、柱の沈下も酷かった。  


改修前ファサード

葛石据え直し

棟母屋切断
 もっとも苦労したのは構造改修、長屋は構造材を共有しているため、どこまで出来るものか? 無理に触らない方がかえって良いという意見も頂いたが、出来るならした方が良い。それが現場で自問した答え。トオリニワ側、南の隣家とは共有柱根継ぎのみにとどめるしかないが、居室側の北側は共同井戸があることで、なんとか作業の余地はある。そしてそこでの基礎の沈下が著しい。  
  棟木、母屋、軒桁、人見梁を一度に全て切り離し、北側の側壁を単独の面として持ち上げ不陸調整することは容易に出来る。しかし、共同井戸のさらに北側の隣家が受けるかもしれないダメージ、切り離して別方向に動かし、不陸調整した家を、後で確実に再接続出来なければ、四軒一体の長屋の構造が無意味なものになる。その不安と責任を考えると、遠回りだが、全体の様子を見ながら、揚げ前を側柱一本ずつ進めることにした。壁と貫を傷めぬ程度までゆっくり柱を揚げ限界で一度母屋を繋げる。そして二本目の母屋に移り同じ行程を繰り返す。順番に揚げ、そしてまた最初に切断し繋げた母屋を仮固定に戻しもう一度揚げ直す。棟と母屋は左右には振れささず、上下にのみ動くよう仮固定した上で切断した。それでも音を立て木口が跳ね上がり恐ろしかった。  

改修後トオリニワ
 最大120oの沈下を揚げるためと、確実に再接続させる事が前提なので少ずつ何度も地道な作業を繰り返し、ようやく水平をとることが出来た。揚げ前と同時に今後の不同沈下を防ぐよう、ひとつ石も葛石に据え直した。変わってしまった棟と母屋の高さはタルキと野地板で調整し、さらに土葺きで野地ムラも修正し瓦も納めた。いがみ突き、登り梁の交換も済ませ構造改修を終えた。    
 長屋全軒で構造改修が出来るなら、それに越したことは無いが、一軒のみの改修にて出来る限り目指した改修は達成されたと思う。
 京町家作事組と私共棟梁塾一期生の目指した町家の改修、再生を大変喜んで下さり、少し遅れた工期も温かく見守って下さったお施主様に感謝の気持ちで一杯です。

大下 尚平 (京町家作事組理事)
 
2010.5.1