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京町家作事組

改修事例引継ぎ、そして次世代に贈る町家再生─御所南・NA邸


設計・クカニア/施工・堀内工務店



ファサード
 京都御所の南地域に建ち並ぶ「大塀造り」の町家の改修工事です。
 間口4.3間、奥行き15間と、母屋と離れを持つ堂々とした町家です。母屋の創建は、1900年頃と伝わり、施主様の祖父母が住まわれていましたが、23年前に引き継がれました。
 施主様は東京に在住のため、引き継がれた後、仕事と家庭に忙殺され「京都の家を何とか…」と時折考察されているうちに、月日が流れたようです。
 以前にお向かいの町家の改修を行ったのを見られ、2008年8月に作事組にご連絡いただきました。
 施主様は「使用の緊急性は無く、末永く、保存使用を行うための改修提案を考えて欲しい」との依頼があり、ややスロースタートを切りました。
 母屋は「入母屋造り2階建て」1階4室2階3室の町家ですが、大家族になり60年ほど前に、2階座敷部分や他の間取り変更工事をされていました。

■改修のポイント:母屋

座敷
 南へ全体的に最大で90ミリの沈下、南側へ30ミリ倒れがありました。1階は床を全て撤去し、柱の足元の「ひとつ石」をすげ直し、玄関廻りの基礎「古カツラ石」は全て、補修・補強、新設で並べました。
 軸組改修では、揚げ前・歪み突き、各柱の根継作業を行い、梁の腐食箇所の取替工事を行なった。
 1箇所ずつ補強も含めながら作業を行っていましたが、長年の雨もりから、白蟻が家屋の真ん中の柱から2階まであがり、梁やササラまで蟻害があり、取り替える事になりました。
 元々ハシリニワであった、南側の「井戸」回りの、足元の構造材は腐食が激しく、基礎になる「古カツラ石」をしっかりと据付、柱勝の構造組で町家の工法により、旧材と新材を組み合わせました。
 当初、火袋であった箇所も復元でき、高窓を造ったためキッチンは明るく、風通しのよい箇所になった。
 特に施主様の要望で、出来るだけ、既存のものを最大限利用するとのことで、古建具等は9割使い回し、柱は最小限度の箇所での根継とした。
 何回か、大規模改修が行われていましたが、現状と変らぬ様、新材の箇所は拭取り古色塗り、既存箇所は水洗いとし、遜色の無いような改修を行った。
 外部南側壁は、以前隣家が解体されたあと、補修にトタンが張ってありました。境界整理において壁の改修も行い、隣接していた壁や物置は取り払い、塀と躯体を切り離し、境界に独立した「杉焼き板塀」を造りました。
 結果、母屋との間に、京町家独特の路地空間ができ、真新しい漆喰壁が施された。
 施主さまお気に入りの「古格子戸」より玄関に入ると、格子より入る僅かな明りをも、三和土風土間と中塗り壁が吸い取り、四帖半とは思えぬ広さを感じさせます。
 また、ゲンカン・ミセ・トウリニワの伝統的間取りにより「見えない結界」が現れ、客人と家人のラインが明確に分かれました。
 トウリより、格子戸から見える「路地庭」は畳石の上を、離れまで風が行きかいます。
 「中庭」の造成は今後の宿題です。

■改修のポイント:離れ
 離れは母屋より後年に建ったかと思われる。「1階3室、2階2室、入母屋造り」、大家族のため、子供室利用の家屋でもあったと聞いています。
 中庭に面した壁や庇は傷みが激しく、特に大屋根の庇は、垂木が折れ、軒が崩れかけていました。雨もりで梁やササラが「腐食・腐れ」により、2階の床が落ちる寸前でした。
 西と南面の「桁・梁」は大幅に取替え構造補強を行い、基礎となる「古かつら石」・「ひとつ石」も補修・すげ直しを行なった。
 独立して生活できるよう、トイレ・キッチン・浴室も新設を行い、床は板張り、壁は中塗り仕上げ、天井は既存で水洗いで行なった。
 東、南、西に窓があり、自然光と通風がよくなり、家全体の大きさは変らないのですが、以前と比べ、「広くなった様に思える」といわれました。
 改修をきっかけに、4世代30人以上の親戚の集まりがあり、古家の「甦り」に喜び、懐かしみ、思い出話に花が咲いたと聞いています。
 今回、次世代に引き継ぎの一角に携われた事を感謝し、何世代へも愛される「町家」になることを念じます。

堀内 健(京町家作事組理事)

2011.7.1