• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家作事組

京町家で旅館業をするための改修工事─大宮丸太町上る・松庵(M邸)


設計・冨家建築設計事務所/施工・アラキ工務店



火袋
 数多くの町家が残る上京区の大宮通り、その丸太町通りを上った大宮通りに面した町家の改修工事です。
 本来、住宅としてお使いのであった町家を今回の改修工事で用途を簡易宿所とし、旅館業の営業を始められるという計画です。
 間口2.7間、奥行き5間の母屋と便所棟との構成になっています。敷地北側の妻面は路地と接しています。
 間取りは一列3室型でミセノマ4畳半、ナカノマ3畳、ザシキ6畳に縁側と並び、並行して比較的幅の広い通り庭が並んでいる。
 奥庭には松と梅があり、松は施主様のご尊父が北野天満宮の楼門の欄干に生えた若木を抽選で当て持ち帰ったもので、旅館の屋号は「松庵」ともなっています。
 昨年2010年の夏に作事組にご連絡いただき、はじめて計画の内容を聞きました。住宅を改修して宿屋を経営したいと依頼を受けたのですが、計画実行はしばらく先とのことと承りました。
 しかし許認可を伴う改修計画でしたので、各課行政との協議や希望のプランであるかなど、調整に時間を要するものであったので、最初の依頼からすぐさま先行して保健センター・消防局・市役所へ足を運び実現可能なプランの調整を始めました。
 調整は3か月ほどかかり、着工可能なプランが出来上がり。その後見積もり調整をして、翌年2月に着工し約4か月の工期を経て6月に引渡し及び許認可も下り無事仕事を終えました。

■改修前の状態
 改修前の状態は、外観から見られる部分では、建物の正面は本来の出格子が失われ軒先に壁が建ちアルミサッシとアルミ玄関引き戸が入った状態で壁仕上げはモルタル塗りです。また軒先の更に先にテントが付いていました。2階は一部ムシコ窓が残っているものの大部分は過去の部分改修と思われる木製引違い建具に改修されていました。大屋根・下屋とも瓦葺であるが古く一部は再利用ができないものもありました。
 内部に入ってみてとれる部分では、ミセノマが床を下げて、大和天井の下に洋間の天井が貼られて元の状態が残っていませんでした。また、玄関土間には一畳ほどの広さの便所が設置してありました。通り庭、ナカノマ、ザシキは本来の姿をとどめていますが、縁側は幅を拡張した改修工事がなされていました。

■改修のポイント(各種規制)
 今回は簡易宿所としての用途変更(当町家は延床面積が100uに満たないので用途変更に伴う確認申請書の提出は不要)に当たるので、住宅を住宅として再生することとは違った改修法となりました。間取りの使い方の問題です。
 保険センターで規定する簡易宿所のとしての要件を満たし、市役所でのバリアフリー法での条件と満たし、最後に消防署での条件を満たして初めて実現可能となります。
 保険センターでの簡易宿所として必要な要件としては、帳場を設けていること、客室のプライバシーが保たれていること、定員に合わせた洗面設備や風呂・便所の相当数の設置。面積の規定、採光の規定なども決まっています。市役所でのバリアフリー法での条件は、建物の扱いは旅館としての公共建築となるので共用部(玄関・ロビー等)には段差・幅等の寸法の確認、手摺・点字ブロックの設置等の検討が必要になってきます。消防署では旅館の用途として防火対象物となりますので、誘導灯や火災報知機・避難器具等の設置、そして避難経路の確保をして客室には避難経路図と懐中電灯を置くなどの規定があります。
 これら条件を満たし、且つ町家本来の姿を残していくにはそれほど多くの回答は無いように思いました。
 先ず、ミセノマを帳場とし玄関土間で来客の受付をする。通り庭を内玄関とし一間半先から床を貼る。ナカノマ・ザシキ・縁側を一つの客室として区画し、その入り口は縁側の脇とする。通り庭、火袋には2階から吹抜け部にバルコニー状の廊下がありそこへ新たに階段を設置し、2階へ通じる動線とした。2階にはツシとナンドがあったものを合わせて一つの客室として改修し、一階を含めて2つの客室と共用部という構成で便所棟には相当数の便所とお風呂を設置・改修という間取りとなりました。バリアフリー法での判断は「松庵」は極小規模で2室しかなく、また予約者のみの対応ですから共用部に本当に法を適用させるような公共性があるのかという問題がありましたが、結果としては建物内部に公共性は無しとし、玄関入口に点字ブロック、便所の一カ所に手摺を設けるとうことで解決しました。消防署では誘導灯の設置や消火器の設置から、2階の避難経路の確保などを検討しました。2階は窓もムシコ窓で進入も脱出もできない構造から、建物北面(妻面)が路地に面していることもあり、この面へ避難用の開口と避難器具の設置が必要となり、町家らしからぬ位置に不自然な開口を付けることになりました。とはいうものの消防署の担当者には十分な理解と協力を得られた結果でしたので、最低限の範囲での逸脱と思っています。

■改修のポイント(意匠)

ファサード
 ファサードが本来の姿を留めていなかったので、今回の改修に合わせて復元を行うこととしました。大宮通りには未だ多くの町家が残って、通り景観としての特色を残しています。復元の根拠として周辺のムシコ窓や出格子について調査し極力本来の姿であったであろう意匠としました。お住まいから商業施設へ変わることもあって、漆喰の色は少し明るく周辺から浮くように黄色を採用しました。
 今回の改修により、この町家は新たな使われ方でこの先も残っていくことを願っています。

冨家裕久(京町家作事組理事)

2011.9.1