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京町家作事組

西陣織屋建の町家──土間を活かした暮らし──上京区・西陣 Km邸


設計・内田康博建築研究所/施工・(株)山内工務店


ファサード
ファサード
 西陣には織屋建てといわれる形式の町家が数多くあります。大型の機織り機を置くため、広い土間と天井の高い空間をもつのが特徴です。今回は、そんな織り屋建ての町家を住まいとして改修した事例をご紹介します。

■経緯
 今年の2月初め頃、Kmさんから作事組あてに改修相談のメールが届きました。内容は、西陣の織屋建ての町家を購入して住みたいが、改修が可能か、住まいとして使うためにはどのくらいの経費がかかるか相談したい、とのことでした。さっそく理事会で担当を決め、見せて頂きました。相当長い間手入れがされず、屋根や壁などかなり傷んでいましたが、もちろん直すことは可能です。工事予算の範囲内では全てをまかなうことは出来そうもありませんでしたが、まずは最低限住める状態まで改修し、あとは追々手をいれていこうと考えているとのことでしたので、工事範囲を限定すれば予算に納めることも可能との判断をお伝えしました。早速、購入手続きをすすめ、並行して改修案を検討し、4月半ばには改修工事に取りかかりました。

■建物の状態
 築年は記録が残っていませんが、柱が丸太に近いこと、ツシ2階の高さが低いこと、井戸引きが入っていないことなどから江戸期に遡ると判断されます。間口は3間と少しで、トオリニワは1間幅を確保し、ゆったりとしています。ミセ6畳、ダイドコ6畳の奥に奥行き4間、幅3間の広い土間があり、吹き抜けの空間を横切る直径30センチ以上もある大きな松丸太の梁で登り梁を受けて全体を支えています。主要構造部は建築当初から大きな改変はなく、そのまま使える状態でした。

■改修の内容
 大黒柱、恵比寿柱とそれに掛かる胴差しなど主要な部分は問題ありませんでした。しかし、それ以外は傷みがひどく、側柱は10センチ以上下がり、屋根の高さで10センチ以上も傾いているところもあり、それに伴い屋根は波打ち、瓦も一部補修部分以外は古いままでした。結局ほとんど全ての側柱を揚げ前し、歪み突きを行い、カズラ石を据え直しました。合わせて屋根の不陸を修正し、瓦を葺き直しました。表の下屋は落ちかかり、出格子廻りも蟻害や腐朽が激しく、ヒトミ梁の一部と角の柱が空洞に近い状況のため、使える部分は極力残しながら下屋庇と出格子廻りをやり替えています。壁は傷んだ部分は合板などで隠されていました。3分の1程は下地からやり直し、仕上げは全て塗り直し中塗り仕舞としています。

■三和土の自主施工に挑戦
 広い土間は1/3は茶席として床を張り畳を敷いていますが、残りの2/3は土間のままとし、三和土としました。予算削減のため出来ることは自分たちで、という方針のもと、材料の準備や仕上げは左官屋さんにおねがいしましたが、叩く作業は家族、親戚、友人、知人、会社の同僚に声を掛け、真夏の日曜日に2回に分けて、各回20人程で三和土を施工しました。

三和土(たたき)施工
三和土(たたき)施工
土間空間
土間空間
揚げ前の様子
揚げ前の様子

■これから
 関係者一同の協力を得ながら一応の完成をみましたが、庭と茶席の天井と間仕切りなど、まだ未完成の部分を残しています。家族や親戚もいっしょに様々に思いを巡らし、アイデアを出し合い、完成を目指しています。西陣織屋建ての広々とした町家が、のびのびと拡がる町家住まいの楽しい構想をゆったりと受け入れる器となっているようです。

内田康博(京町家作事組理事)

2011.11.1