• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家作事組

表屋造りの大店の改修——不明門通りIH邸


設計:末川協建築設計事務所/施工:大下工務店


屋根を取ったゲンカンニワ
 昨年のお盆前、理事会の後、例によって事務局で涼みながらビールを飲んでいた。週末の三条通りは夜更けまで人通りが絶えず、格子を覗き込んで行かれる人も多い。そんな中、町家の前を通り過ぎ、再び戻って事務局の看板を確かめるお二人があった。若手大工がフットワーク良くオモテに出て見学の案内を申し出た。先方もほろ酔い加減のご夫婦連れ。夜なべをしていた事務局も出てきて、町家(ちょういえ)のご案内した。以前から作事組の存在はご存知で、改めて取り組みをお伝えした。現在は横浜にお住まいだが、ご主人のご実家の町家について相談を受け、追ってメールでの正式なご連絡と、ご実家の間取図が届いた。

 11月に再び法事で戻られたIHご夫婦をご実家に訪ねした。不明門通りの松原下ル、もと呉服商の大店である。事前に頂いた改修のご要望と、その場で判る限りの建物状況への所見から、今までの実例から想定できる工事金額の目処をお伝えした。今回も改修と同時に利活用が同時に求められた。先行事例の見学を申し出た。また、詳細調査の必要をお伝えした。

 年を越し、1月に奥様に京都までご足労頂いた。一日目は見学。案件は規模の大きな表屋造り、表の賃借も活用の条件に含まれる。元作事組の事務局と、京町家再生研の本部を訪ねた。大家さんのお話、再生研事務局長からのお話をいただけた。技術者とは別の立場からのお話は、別の力添えになる。またLDKの改修も望まれた。元の姿に戻しながら、それなりに快適に改修できた例をご案内した。出来るだけ歩きながら事例を巡った。見学先以外の改修例も外から見ていただけるし、自転車に乗る別のお施主さんとすれ違い、仕事中の職人さんに出会うことも起こる。

 二日目は一日掛りで調査実測。大店では、一列三室型の町家に比して、4倍以上のボリュームがある。設計は矩計まで含めた実測を、大工はレベルとイガミ、床下や小屋裏の調査を手分けした。そして声を掛け合って情報を共有する。瓦職も調査に加わった。ここで概ね、望まれる改修に加え、必要とされる改修が把握できる。北側側柱30本超の沈下、表屋の柱の蟻害、ニワを塞ぐ仮設の屋根が本来の町家の屋根を傷めていること、ゲンカンニワの石畳の下で、土管の漏れ、電気の古い引き込みなど。明治期の町家の表屋と主家が大正期に総二階に改修された過程が読み取れる。ゲンカンの小屋組の上にモルタルで作られたルーフテラスの重さが沈下の原因になったことも。夕方には奥様に所見をお伝えした。追って現況図、提案図、概算見積もりの作業に向かった。概算と言っても、ほとんど拾い出しができるまで想定し金額を入れる。歩掛の予算提示で信頼がもらえるほど甘い時代ではない。


表屋の柱の根継ぎ
 3月には正式に設計着手、上記の改修内容のコスト管理が今回の物件の課題、見積もりを睨みながら、詳細調査を続けながら、改修の優先順位をIH氏と何度も打合せした。遠方にお住まいながら、検討表のやりとりに厭わずに応答くださった。同時にオモテの活用についても、京町家情報センターの協力を依頼した。そして5月の連休に工事着手、目立つ造作の工事は少ないが、構造改修と水仕舞いは妥協なく貫徹した。4月に始まった「まちの匠の知恵を活かした京都型耐震リフォーム支援事業」の事前協議を行なった。工事現場には、京都市の建築審査課の構造担当のお二人においで頂き、実際の構造改修工事の内容、柱の根継と揚げ前、大正期に設けられた土台の腐朽の状況、ひとつ石基礎の復旧を見ていただけた。柱の傷みの状況とその原因、実際に行なった根継の使い分け、木舞の編みなおし、土壁の復旧の方法など、建物構造の健全化の範疇を現場で確認しあう機会をいただけた。実際にかかる手間やコスト、それに対する支援の割合のこともオープンに話し合う事が出来た。そして祇園祭の前に大工工事は完了、この8月に無事引渡しが済んだ。表を間借りする店子も決まりそう、大型の町家が存続していく改修事例になればと願う。

末川 協(作事組理事)

2012.7.1