表屋造りの大店の改修——不明門通りIH邸設計:末川協建築設計事務所/施工:大下工務店
11月に再び法事で戻られたIHご夫婦をご実家に訪ねした。不明門通りの松原下ル、もと呉服商の大店である。事前に頂いた改修のご要望と、その場で判る限りの建物状況への所見から、今までの実例から想定できる工事金額の目処をお伝えした。今回も改修と同時に利活用が同時に求められた。先行事例の見学を申し出た。また、詳細調査の必要をお伝えした。 年を越し、1月に奥様に京都までご足労頂いた。一日目は見学。案件は規模の大きな表屋造り、表の賃借も活用の条件に含まれる。元作事組の事務局と、京町家再生研の本部を訪ねた。大家さんのお話、再生研事務局長からのお話をいただけた。技術者とは別の立場からのお話は、別の力添えになる。またLDKの改修も望まれた。元の姿に戻しながら、それなりに快適に改修できた例をご案内した。出来るだけ歩きながら事例を巡った。見学先以外の改修例も外から見ていただけるし、自転車に乗る別のお施主さんとすれ違い、仕事中の職人さんに出会うことも起こる。 二日目は一日掛りで調査実測。大店では、一列三室型の町家に比して、4倍以上のボリュームがある。設計は矩計まで含めた実測を、大工はレベルとイガミ、床下や小屋裏の調査を手分けした。そして声を掛け合って情報を共有する。瓦職も調査に加わった。ここで概ね、望まれる改修に加え、必要とされる改修が把握できる。北側側柱30本超の沈下、表屋の柱の蟻害、ニワを塞ぐ仮設の屋根が本来の町家の屋根を傷めていること、ゲンカンニワの石畳の下で、土管の漏れ、電気の古い引き込みなど。明治期の町家の表屋と主家が大正期に総二階に改修された過程が読み取れる。ゲンカンの小屋組の上にモルタルで作られたルーフテラスの重さが沈下の原因になったことも。夕方には奥様に所見をお伝えした。追って現況図、提案図、概算見積もりの作業に向かった。概算と言っても、ほとんど拾い出しができるまで想定し金額を入れる。歩掛の予算提示で信頼がもらえるほど甘い時代ではない。
末川 協(作事組理事)
2012.7.1 |