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京町家作事組

現代的な二世代住宅の再生例——下京区Ku邸


設計・アトリエRYO/施工・アラキ工務店


ファサード
アルミ格子から真鍮の丸管格子に戻し、
格子戸の大戸は古建具を利用
 仏光寺通りに南面する、昭和14年に建てられた間口2間半奥行7間半、1列3室型近代様式の町家が改修された。間口に対して、敷地の奥行が非常に長く、主屋の奥にある渡廊下の奥行5間に加えて、1列3室のハナレ棟を構え、さらに1間半巾の北庭が控えている。
 太平洋戦争直前期に、ファサードの金属格子や花崗岩一枚貼の腰石、琉球表に水牛の黒皮縁のタタミを敷き、前栽にサザレ石の巨石を据え、小屋裏には屋階を持つ贅沢な普請がなされている。表屋は白生地問屋の商いに使われ、ハナレは住居として主屋より古い時代に建てられた趣を持ち、解いてみるとハシリニワと火袋の構えが発見された。

●改修のポイント
 まずは隣のマンション建設のためか西側柱列が3〜5cm沈下して、傾斜した架構を構造改修する。通りの角から玄関奥の大黒柱通りまで8本の側柱の揚げ前と、土台の不陸調整を行い、破断したコンクリート製布基礎の強度復元のための布基礎新設と新土台の接合補強を行い、修復後の土壁を塗り直した。また、それとは逆に浮き上がった大黒柱周辺のコンクリートの布基礎を撤去し、側柱を揚げ前是正すると、大黒柱は再び礎石の上に着地し架構全体が安定を取り戻した。
 ハナレ棟も同様、不同沈下した柱を土台修復して揚げ前し、亀裂や穴のあいた土壁を補修して床組みを再生した。又一方で、着手前幅一間半、2階建に増築されていた渡り廊下を幅1間、平屋に減築し、失われていた前栽の美しいプロポーションを取り戻す、復元的修景工事を行った。この渡り廊下部分とハナレ棟の東側壁は隣家の建屋と接合されていたため、床と内壁を改修するにとどめた。


南のトオリに面したキッチン

玄関の間 上がり框を下げる

渡廊下から見る前栽にある大きなサザレ石

●再生プランの特徴
 表側ミセノマ6帖を土間使いの明るいキッチンにしている。これは、カフェやレストランでよくみられる町家再生の配置変換であるが、専用住居として町家を仕舞多屋化する中で、料理好きの奥様が一番に賛同された革新的プランニングである。表屋の2階部分に親と、ハナレ棟の上下階に成人された子供達のそれぞれ独立した居住スペースを確保しながら、共通のリビングダイニングを表屋1階のオクノマ(洋室)に設け、L字型に連続する広エンと渡り廊下へと展開させた。それにより、商家としての昭和初期の町家の外観や構造特性を保持しながら、現代的な二世代住宅としての再生例が実現したと考えている。これから、実際の生活を通して現代のハレとケの豊かな町家生活の内容が充実されることを願っている。

木下龍一(アトリエRYO)

2013.1.1