• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家作事組

お風呂棟の改修工事ーー北区 F邸


設計:冨家建築設計事務所/施工:熊倉工務店


お風呂棟(外観)

改修後
 北区F邸。もとは米屋だったと聞く町家で骨太でしっかりした外観を持っている。恐らくは昭和初期の建物と推測する。これまでに所有者が数度変わり、現在はF氏のお住まいとなっている。前所有者が設計関係の方だったと聞きその時の改修で今でも使われている。表土間を磨き御影石貼にするなど、少し個性の強い改修の後が見られるが、とりわけ今すぐ手を入れなければならないというものではない。最初に作事組でご相談を受けたときは、母屋の耐震改修とお風呂棟の改修工事、離れの建築工事と3つのお話しでした。現場を拝見し、母屋の状態を確認しました。結果、状態は非常によく土壁もしっかり入っておりまた壁の配置もバランスが良かったので今すぐ、部材の健全化や耐震改修の必要性はないと判断しました。一部白蟻の蟻害跡が発見されましたが活動期間が短かったのか、軽度の被害でしたので薬の散布で対応することとなりました。離れの建築においても同一敷地内で建築確認を取るのではなく、元々借家が建っていた借家地の敷地に対しての建築行為という方針で進めることとなりました。


廊下側から見る
 お風呂棟の改修工事では既存の屋根伏せをうまく利用して、また棟の位置をずらして高さを確保するなどの計画を考えていきました。
 母屋縁側から濡縁に続いて外部となり手前にお風呂、奥に便所と並んでいましたが、これでは便所に行くには必ず外部の濡縁を通っていかなくてはならない間取りでした。また浴室洗場からすぐに縁側につながり、洗面脱衣室は縁側の端となって特に間取り分けされたわけではない状態でした。
 外に出ず外気に触れずに便所に行くにはどのようにしたらよいか、また濡縁の庭に面した風情はどの様に残すか、脱衣室をどの世に設けるかの3つが課題となりました。
 縁側に面した母屋側から脱衣室と便所の入口を並べることによって、それぞれ屋内から各室に行けるように配置すると、縁側突当りが洗面台で塞がっていたのですが、ここが開放されて、勝手口として妻戸を入れて出入りできるようになりました。また濡縁から見える外壁面と建具はそのまま残してその内側に便所と風呂を配置しました。便所は濡縁側の壁の保全を優先したために、壁面に開口部が取れない状態となったので、天窓を設け機械排気で換気する選択となりました。壁に窓がないのですが明るい便所となりました。またお風呂の方は濡縁側にみえる元々の便所の建具を開けると浴室の窓が現れ覗けるように配置しているのでお風呂から奥庭が見られるようになりました。これによって濡縁側のイメージを触ることなく壁の向こう側で改修工事が進められました。お風呂はユニットバスではなく在来のお風呂でTOTOのネオマーブバスの浴槽を入れて100角の真っ白の磁器タイルを使い、腰下タイル貼り上部と天井を桧板貼りのすっきりとした意匠の浴室としました。木部が多いためカビ・腐朽菌や壁体内結露対策などに配慮して、通風が良く取れるように開口を配置しました。窓は庭に面した側とその反対面に高さを変えて窓を設け脱衣室との出入り口を通って脱衣室側の窓、縁側との出入り口、縁側の勝手口と通風経路を非常に多く取り、風の抜ける配置としました。また同様に通風については壁体内、小屋裏も同様に配慮しています。

 高断熱、高気密とは逆行しているような考えではありますが、木と土を使った建物で材料の健全性の維持には建材に呼吸させるということが重要なことだと信じています。
 補修に留めた濡縁側を除いて外壁面は漆喰塗り、木部は古色塗を止めて白木で新たに建直しています。母屋の古色塗された重厚な雰囲気とは変わって明るい清々しい雰囲気が出せたと思います。
冨家裕久(京町家作事組理事)

2014.3.1