• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家作事組

Td邸改修工事ー東山区/Td邸


設計:クカニア/施工:アラキ工務店


改修後

改修前
 一年ほど前のお会いして間もない頃、ご自宅での設計打合せ中に突然大雨に見舞われ、ミセノマにあたる喫茶店の床が、表通りからの浸水で水浸しになったことが思い出されます。

 ご紹介するTd邸は、大正十年築、岡崎通に面する総二階・間口三間半の一列三室型の町家です。大屋根はカシキ造りが見られますが、一階のミセノマとミセニワは、一時期営業されていたという喫茶店とタバコ屋の装いのため、看板建築に変わっていました。

 喫茶店の出入り口は、ちょうど表通りに対して垂直なT字路の道路正面に位置し、道路の勾配やその地形によって、降雨時には道路から雨水が入ってくることが度々あったそうです。喫茶店の中は、人見梁をかわして天井高を確保するためか、土間を掘り下げて改修されており、浸水しやすく雨水をかき出すのも一苦労でした。さらに、奥の前栽の蹲下の排水も目詰まりしており、行き場のなくなった雨水が庭からも浸水して、床下は湿りが感じられる状態でした。

 そこで改修の際には、オモテの犬走にはきつめの勾配を取り、葛石を高めに入れ、道路からの雨水の侵入を阻止するようにしました。さらに、建物の床下にはトオリニワと同じように土間コンクリートを打ち、地形上低くなって湿りやすい地盤からの湿気を防止しました。前栽には改めて排水桝を設け、庭の雨水も滞りなく排水されるよう改修しました。ここ最近の大雨でも浸水は見られないので、雨水問題は解消できたと思われます。

 また、看板建築に変わっていた外観は解体し、人見梁に残っていた腕木のほぞ穴等を手掛かりに、当初の姿と思われる表庇を改めて作りました。腕木先の意匠は、職人さんの造作によるものです。

 同じく解体後、あらわになった構造体を確認すると、人見梁の全長の半分ほどが腐っていることが露見しました。一番ひどいミセニワの隅柱のあたりは、原型を留めておらず柱にもかかっていない状態で、下に添え梁をして補強されていました。おそらく、前述の喫茶店への改修時に施されたものだと思われます。今回は抜本的に手を入れるべく、添え梁や腐っていた人見梁は撤去し、部分的に人見梁を入れなおしました。改修後は現しになった外観と相まって、ありのままの落ち着いた佇まいを見せています。

 建物の構造状態は、オモテは中央から両側壁側に沈下、オクではハシリニワ側が沈下しており、コケは北側及び東側に向かって見られました。各所によって不陸の度合いやコケの向きにバラツキがあったのは、度重なる改修や両隣の建物新築によるものかもしれません。この建物の北隣には、もともと連棟だった町家を撤去して十年ほど前に建てられたという三階建ての在来木造が増築されています。屋根や外壁とのからみから、揚げ前・イガミ突きは無理のない範囲にとどめ、レベル差に応じて建物を下げたり、不陸調整で対応しました。

 二棟の建物は内部で行き来できるように増築されており、二棟合わせて生活をされていたそうですが、家族構成の変化や階下のみで生活したいとの思いから、昔住んでいたこの町家の一階で完結した暮らしができるよう、改修計画を進めました。居間や寝室・すべての水廻りは一階にまとめ、コンパクトな生活ができるようになっています。ダイニングに改修したナカノマの上部には吹き抜けとトップライトを設け、窓の取れない部屋にも上部からの採光を取り入れました。また、補助的な利用を想定して小型のホームエレベーターを設けています。エレベーターの設置にあたっては独立したシャフトを設け、既存建物に影響のないよう配慮しました。

 工事中には、道行く方々によく声をかけられ、随時進捗状況をご覧になられているとお話される方もおられました。昔からお住まいの居宅だったので、地域の方々に見守られた工事だったと感じました。完成しても、「きれいになった」と評判だと伺っています。

 この町家の存続を強く望まれたご子息へと引き継がれるお手伝いができたのであれば、嬉しく思います。

南 麻衣子(作事組理事)

2014.11.1