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京町家作事組

T邸改修工事ー上京区/T邸


設計:冨家建築設計事務所/施工:アラキ工務店


2階内部

 T邸は上京区の椹木町通東堀川と油小路の中間、南側に面してあります。この通りは料理店や豆腐店が並び細い通りながらも賑やかな街並です。この地域の歴史は、古く平安京の時代は高級貴族の邸宅があり、応仁の乱の頃は武家の陣所、江戸期は禁裏、公家町に隣接する町人地として発展し、明治以降は京都府庁や隣接する官公庁舎となり、歴史的性格形成に大きな影響をあたえています。
 今回改修させていただいたT邸は、依頼主が育たれた家で先代から住居として住まわれていましたが、家業(パンメーカー)の事務所として一部利用している形態でした。階段下には大きな金庫が残されています。

■改修前の状態
 間口3間、奥行き5間半、本2階建てにお風呂棟が南に続きます。1列3室型の間取りで東側に通庭、表からミセの間、中の間、座敷、縁側と並びます。2階は表の間、中の間、座敷、縁側と並び東側玄関上に1室、通庭上は火袋となっています。建築様式は正確な年代は不明ですが、恐らく大正時代後期から昭和初期の形態と思われます。その時期の特徴として、2階の階高が高めになっています。
 正面ファサードの様子はアルミ製の玄関ドアと平格子と出格子の組み合わせでその前には駒寄せが付いています。軒庇には幕掛けもついています。2階はかつてはムシコ窓と木製建具の組み合わせであっただろうと聞いていますが、現在ではアルミサッシが嵌められています。
 玄関に入って壁面に化粧合板が貼られて大壁となっています。台所は既に床上げされていますが、居室の床面と一段段差がある状態でした。壁面と天井は全て化粧合板で大壁になっています。居室はオリジナルの状態が良く残っていますが、表の間は洋室化するために押入建具が洋風建具に入れ替わっていました。中の間は掘り炬燵と木置きの板間と畳敷の組み合わせとなっています。2階は玄関の上の小さな1室が依頼主の子供部屋で学生当時の様子がそのまま保管されていました。
 トイレお風呂棟が昭和中期に改修されているようで縁側の建具1枚目あたりまで外壁面が出てきて、お庭が随分狭く感じました。
 今回の依頼内容は、今まで住まわれていた依頼主のお母様が亡くなられ、空き家となったものを自分たちのこれからの住まいとしてなるべく町家らしい元の姿に戻して住み継ごうという内容でした。


外観
■改修個所について
 依頼内容にあるように基本的な工事はもとの姿への復元となります。鋼製建具は木製建具へ、大壁は真壁へ、増築している部分は減築し、生活によって追加されていった収納などは撤去しています。傷んだ部分をなおして、住宅設備を入れ替えます。改修のセオリーに忠実にすすめます。
 具体的には傷んだ駒寄せは撤去し、玄関のアルミ戸は木製の格子引違い戸に嵌め替え、玄関の壁は化粧ベニアをめくり土壁を補修します。表の間の押入は洋風建具が嵌っていたので襖に入れ替えます。台所の床の高さは今回の改修で居室の高さに合わせて床の高さを組み替えます。トイレお風呂棟は1間半強あった幅を通庭と同様に1間幅に減築してトイレ・洗面脱衣室・お風呂と続くように配置します。2階のアルミサッシを木製建具に嵌め替え、玄関上はムシコ窓を復元します。あとは建物全体の土壁の補修と畳の表替。キッチン・便器・洗面台・風呂などの住宅設備を新しいものにします。

■改修中に出る問題点として
 当初は抑えるところは抑えた予算でスタートしましたが、着工前調査により発見できなかった問題が発見されました。着工前調査とは目視により外観・内観・床下の状態確認と建物の傾き・不陸の状態、設備の状況を確認するのですが、基本的に非破壊調査になります。大壁になっている場合や、フローリング張りになっている場合などはその中を事前に調査できないという問題があります。
 今回は事前に予見できなかった部分が着工後3ヶ所発見されました。一つは出格子下の框が白蟻にほとんど喰い尽くされていました。風雨除けに化粧合板を上から貼ってあったのですが、依頼者のお母様が過去に発見した蟻害を隠す意味合いもあったかもしれません。また2階表の間の梁にも蟻害があり、大部分が白蟻に喰われていました。どうやら2階の梁にコロニーを作っていたようです。こういった場合、白蟻が水を確保できるということは雨漏りの可能性が考えられます。聞けば過去に屋根を葺き替えており、その前に雨漏りしていた期間があったということでした。この箇所も応急処置されて発見できませんでしたが、蟻害があること前提であらためて小屋裏を調査すると蟻道の跡などが発見できました。ケースとして少数の事例ですが1階床下より2階以上のところで蟻害があったということになります。
 最後はお風呂棟の板金屋根付近、火袋2階外壁面外側の水切り板金の下でした。
 それぞれ調査が難しい個所は、大壁になっていたり、押入に荷物が満杯でその裏が見られなかったり、板金屋根の裏側であったり等で、簡単には調査できない部分をどのように予見するかは工事見積もりに大きく反映します。この調査能力は経験と勘といったものが非常に役立ちます。今回は追加工事が出てしまいましたが、また経験を積めたことにより、更なる調査精度で次回調査に望めることになります。作事組として多くの物件に携われるということがまた重要な点であると再認識しました。

冨家裕久(京町家作事組理事)

2015.9.1