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京町家作事組

空き借家2軒をあわせて住まいとする--中京区 Kt邸


設計:内田康博/施工:(株)熊倉工務店


表の家の縁側の入れ替えた柱と桁

路地を廊下として利用(工事中)
 ここ数年、すっかり恒例となった東京での京町家相談会ですが、京都に移り住みたいという方、京都で事業を起こしたいという方の他、京都の実家を改修してお住まいその他に活用したいという方々も相談に来られ、実際に改修、活用につながる事例がいくつも見られています。これまでも何例か当通信で紹介されていますが、今回ご紹介する事例も東京での相談会がきっかけとなって作事組で改修をお受けすることになりました。
 
 相談者に初めてお会いしたのは平成27年11月21日(土)、『「京町家を活かす」京町家の暮らしを次世代につなぐために』と題して立命館大学東京キャンパスに開催された相談会の会場でした。相談者は関東にお住いですが、京都の実家ではご両親が昔ながらの京町家におすまいとのこと。大きな改修はしないまま、現在のところは特に問題なく生活されていますが、今後、年齢が進むにつれて不自由が増えることが懸念され、本格的に不都合が生じる前に、住みやすく、今よりも暖かい家に改修しておきたいとのことでした。左右両隣の借家も所有されていますが、空き家となったままで、将来的にはその活用も考えたいとのことでした。立地条件は四条通りに近い街中で、売却すれば転居費用に不足はないようにも思われますが、ご両親は住み慣れた地でこれからも住まうことを希望され、相談者を含む子供たちご兄弟一同もご両親の希望を第一とされ、できれば生まれ育った町家群を維持し受け継いでいきたいとのご希望でした。
 
 お住まいの町家を改修する場合にはいつものことですが、改修前に仮住まいに引っ越し、改修後に再度もとの家に引っ越すことになり、2度の引っ越しは体力的にも精神的にも大きな負担となります。今回は隣に所有される借家が空いていたため、そちらを改修して住まいとすることで引っ越しを1度で済ますこととしました。借家はすこし小さめですが、表借家と路地奥の借家を合わせると1階だけで生活することが可能となり、トンネル路地も家の一部に取り入れることで面積も有効活用できます。
 
 表の家の築年は棟札によると明治36年6月でした。奥の家は不明ですが、そのしばらく後と思われます。土葺きのまま残されていた屋根瓦はすべて葺き替えました。大部分は当初のままの瓦と思われます。雨漏りの痕跡はあちこちにみられましたが、その都度補修され、現時点で漏れているとみられるところはありませんでした。但し、表の家は風呂・トイレ棟との取り合いの柱の傷みが激しく、それと接続する1階の桁にも蟻害が進んでいたため、柱、桁とも入れ替えました。また、奥の家も同じく風呂棟との取り合いの柱が傷み、鉄骨で補強してありましたが、柱を入れ替えることとしました。そのほか、揚げ前を通常通り行いました。当初から気になっていた柱の傾きについては、相談者も是非、できる限り直してほしいとのご希望でしたが、隣接する7階建てのビルの基礎コンクリートが床下まで侵入して柱の根元を圧迫し、反対側の屋根は現在のお住まいと接していたため動かせず、結果、ビルに接する柱を垂直に戻すことはできませんでした。それ以外の柱は足元を少し動かすことでほぼ垂直としています。
 
 お引渡しはあと10日程に迫り、工事は最後の仕上げの段階となっています。今回の改修をきっかけとして、所有されるその他の町家群も今後有効に活用されるお手伝いをさせていただければと考えております。
 
内田 康博(京町家作事組)

2017.1.1