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京町家作事組

六原 路地奥長屋の改修


担当 施工 樺メ工務店  設計 アトリエRYO

 鴨東、六原地区には、何と90本余りの路地や辻子があるという。五条通から大黒通を北に上がると、万寿寺通の角に大黒湯という銭湯が今も建在し、その北横には有名な「あじき路地」がある。通りの4軒先には次の「やましろの路地」の焼物プレートが見え、西へ曲り路地に入ると、12軒奥に対象の町家がある。この辺りの路地長屋は、南側は平屋建て、北側は2階建てで日当たりをよくして高密度に計画された、歴史的な集合町家の観がある。殆どは住まいとして使われているが、中には昔かたぎの職人の工房や、カフェや物品販売の店舗、若手芸術家のアトリエ等になっている。又、次の小路は「田中圖子」とあり、そこは裏の西御門町への通り抜け路地で、27軒の棟割長屋が軒を連ねている。更に清水道(松原通)に向かって、「八軒路地」「南天路地」「いちょう路地」等が並んでいる。

 施主のH.F氏は、ドイツの著名大学の歴史教授で、日本学研究者である。よく京都に滞在され、京都大学や国際日本文化研究所等で、文化経済学の共同研究をされている。20年程前歴史都市京都の町家再生運動に尽力されていた文化人類学者の友人から紹介され、作事組へ来られた。日本人の奥様と共に、この鴨東の建仁寺や六波羅廻りの町並や界隈の情趣を気に入り、町家を購入された。(京町家通信vol.112号)

 対象の町家は、本来創建当初は平屋であったらしいが、購入時には2階に居室が1室増築登記されていた。近年地域の空き家対策が始まり、改修されて売り出された物件であった。電気ガス設備が更新され、内部の床、天井、壁が新建材で貼り廻されたばかりの状態であったが、先ずご一緒に床下、天井裏、壁裏を調査することから仕事を開始した。

施主の要望はまとめると以下の5点であった。
1、裏庭に後付けされた鉄骨外部階段を撤去し、室内に階段を移設する。
2、1列2室型のオモテの間をスタディールームとし、奥の間を濡縁と一体化して新しく再生した庭からの日射しを導入する。
3、キッチン裏の水廻りの古いユニットバスと便所を更新して、明るく清潔な洗面脱衣ユーティリティー室を作る。
4、家族の身長に合わせて、内法を高くするべく床レベルを下げる。
5、外観は伝統的な町並みに合わせて修景する。

改修のポイント
 床下、小屋裏を調査すると、一見きれいに改装された室内の裏側の構造、軸組そして基礎石は、全く手付かずのままで、柱の足元は根腐れし、礎石から外れ、外周の土壁も半分以上は崩落していた。構造改修の内容は、先ず全ての基礎石を据え直し、外周壁の下には新しく花崗岩葛石の基礎石を入れ、殆んど全ての柱の根継ぎ揚げ前を行った。

 隣家との境界壁は、軸組を補修して土壁を塗り、キッチンやユーティリティー側は、キッチンパネルと杉板で内装する。町家改修の定石を踏まえながら、玄関正面の火袋の空間に桧の階段を新設し、2階へのアプローチとした。

 オモテの間には、軒桁、母屋を補強しながら、登り梁を1本架けて、その両側にトップライト2ヶ所開口し、明るいスタディールームを演出する。又、西壁際に長いカウンターデスクを作り、ライティングダクトからスポットライトを落として、2、3人の共同使用が出来る仕事場とした。路地に面したアルミサッシ窓は、格子の入った木製のペアガラス窓に取り替えた。玄関も同じく、アルミサッシを木製の格子戸にしたが、洛中の町家とは違い、素木のまま留めた。宮川筋の町家、茶屋格子風の風情にならい修景した結果である。奥の間4.5帖は、畳敷き、土壁中塗仕上げにし、舟底天井の形は保存した。広縁側のスペースは間仕切り建具を撤去し拡大して、奥の寸庭には白竹トクサ貼風に仕上げ、南からの光を最大限リビングダイニングのスペースに取り入れる工夫をしている。奥の間正面の一間の土壁は保存修復して、その裏に洗面脱衣ユーティリティー室をまとめて組織し、ユニットバスを設置している。天井のトップライトとユニットバスの開口が寸庭に面する事によって、狭小さと薄暗さを逃れるよう配慮している。寸庭の最終意匠は、次回ご主人が来日し長期滞在される機会に、完成する予定である。2階は畳敷、京土壁中塗に和紙貼天井にして、南北両側にガラス窓と障子を入れ、和の寝室にしている。1階の広縁ユーティリティーの屋根上に桧製の物干台を新設し、日光浴が出来る読書用ベランダにしている。裏窓からは南側の「あじき路地」長屋の風景が展開する。


既存外観
   我々はこのプロジェクトを通じて、ヨーロッパ人の知性、感性、生活習慣と、我国の風土、家屋、町並、職人の人情等の相互の触れ合いがあり、対話があり、そうした豊かな交流体験を通じて、京都における町家再生活動への意味深いアドバイスが得られた事を貴重に感じている。御一家で存分に京町家生活を楽しまれることを期待している。

格子から表を眺める
新設階段とキッチン

木下 龍一(作事組代表理事)

2017.11.1