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京町家作事組

「あけびわ路地」6軒目の改修


設計:アトリエRYO+内田康博 / 施工:株式会社大下工務店


改修後の西側の外観(左側)

改修中 側壁の木舞下地

改修前 2階座敷

改修後 2階座敷
〇経緯
 これまで当通信で逐次報告させていただいている下京区の長屋「あけびわ路地」に連なる6軒目の改修の事例報告である。はじめの5軒は2016年3月から7月にかけて順次工事が完了したが、その後、約半年の準備期間をおいて12月下旬に工事に取り掛かった。現場調査及び設計の作業は他の5軒と同時に進めてきたが、6軒目は大家さん御家族で使うことを検討していたこともあり、着工は保留していた。

〇特徴
 6軒目は他の5軒と隣接しているが敷地も床面積も一回り大きく、構造上も独立して建っている。昭和16年8月の棟札から最も後に建てられたことがわかる。塀に囲まれた前庭と2畳の玄関をもつのが大きな特徴で、2階の階高が高く、2階の壁が60cm程他より前に出ていることもあり、別格の存在感のある外観をもつ。

 前庭は南面に木戸門を設け、北に玄関入口、東にはトオリニワに続く勝手口を配す。2畳の玄関の北側に1畳ほどの庭を持ち、東側に4畳半のダイドコと6畳の座敷が並ぶ。ダイドコと座敷の南側に1間弱の幅のトオリニワが配され、東の裏庭に続く。座敷の奥には縁側続きにトイレがあり、風呂はない。以前の住まい手がトオリニワに低く床を張り、片隅に1畳大のユニットバスを設置していた。

 ダイドコ北側の階段から2階に上がると6畳間が2つ並び、どちらも長手に幅一杯の窓をもつためとても明るく、風通しがよい。

〇改修のポイント
 この建物は一群の長屋の中でも最も傷みの目立つ建物であった。屋根の棟中央部が下がって雨漏りし、2階の床の畳は湿って腐朽していたため、本格的に改修するまでブルーシートで養生していた。また、北側隣地からの雨水による柱の腐朽、及び床の沈下が著しかった。

 その他、外壁には他の棟にはないモルタルが塗られ、軒裏もモルタル塗りで隠されており、湿気が逃げにくいために木部の蟻害、腐朽の可能性が懸念された。

 間取りは当初の間取りを踏襲して変更は最小限とし、ユニットバスを一回り大きなものに入れ替え、キッチンとの間に洗面脱衣室を新設するにとどめた。

 工事を始め、北側側壁を隠していた合板を撤去すると階段部分外壁の土壁がほとんど落ちていただけでなく、柱も大きく傷んでいたため、この部分の柱と桁を入れ替え、土壁を木舞下地から復旧した。また、座敷の北側外壁は柱の足元が腐朽して大きく沈下していたため、一度1階の床を撤去し、地面からポストを建て、2階床を介して2階の床柱、及び、天井を突き上げるなどの工夫をして水平に戻した。側柱の下にはカズラ石を据え直し、根継ぎを施し、土壁を塗り直した。

 北側隣家の蔵の樋や外壁が傷んでいたため隣の方にも現況を確認いただき、この機会にこちら側から補修いただくこととた。また、隣家の給水管からこちら側への漏水がみつかり、元栓を締めるなど対応いただいた。

 瓦を葺き直し、外壁のモルタルを撤去して大津壁を復元し、木部は弁柄塗装とし、塀は焼杉板で仕上げ、木戸門の瓦を据え直すと長屋の北端に一段と高く屋根を上げる姿が美しく甦った。

 今年(2017年)の10月末、通りを挟んだ西側の8軒の長屋群が全て空き家となり、現況を把握するために早速、調査に着手したところである。現状を確かめつつ、住まいや店舗としての活用の方策を探り、新たに使っていただける方を探すなど、新たなプロジェクトを進めることになる。

内田 康博(京町家作事組)

2018.1.1