復旧へのこだわりと新規活用を目指した町家の改修![]() 設計:末川協建築設計事務所 / 施工:辻工務店 ![]() ![]() ともかく、最初の相談では、調査実測の前に敷地内の伐採とお道具の片付けから始めましょう、と5月の連休明けから庭木切り、おっかけ6月の初めから不要な家財の処分に取り組んで頂けた。その間、先述のあずきやの女将にも戦前木造の改修の成果を、いつもながら気さくに御案内頂き、お母様にも今日的な町家改修へのご理解を求めた。 ![]() 8月初めに構造と外装の改修費用の概算提出。同時に京町家情報センターの協力を得て、賃料の想定。改修費用は10年を待たずに回収できる見込み。店子には宿泊施設の希望者が早々に名乗りを上げた。そして設計契約後、実施設計と内訳を作成した12月。お嬢さんから連絡があり、自己活用に変更したいと(都ハウジングさん済みません)。おっかけ内装設計、設備設計が追加された。元の町家への復元が原則であり、お嬢さんは新建材の耐用年数に根本的な疑問を持っておられた。元の本瓦が残されており、蔵の改修も工事に含めると決心された。 年を越し2017年2月に工事開始。急ぎの西隣の焼杉板の貼替のため、西側の揚げ前を先行。1階の座敷には2間一枚、間中幅の松の床板があり、揚げ前時には、それを活かして床柱をコボつ設計だった。根性を決めた大工が床下に潜り込んで8センチの揚げ前を成し遂げ、そのままの床の間を守った。施主であるお母様、お嬢さんには工事中の四条町会所の見学にも出向いて頂き、林理事長からも丁寧な応対頂き感謝する次第。また、亀岡のUh邸からも戦前の建具を支給頂き感謝する次第。想定外の工事では、同じ敷地内の別宅の土管のツマリと蔵の土壁の駄々傷み。蔵外壁の鉄板をはがすと四方の台輪が崩壊している状況だった。追加の工事費用もお嬢さんのこだわりにより即断即決。1階のお座敷の床下からは炉を切った跡と、掘り炬燵の跡が同時に現れ、それらの復元も追加工事に。炉壇は平楽寺書店さんのお座敷から支給頂き、重ねて感謝する次第。工期にも余裕を頂き、祇園祭までに主屋工事完了。奥の蔵と納屋の改修は時代祭までお時間を頂けた。 果たして10月に竣工引き渡し。三条通を見降ろす2階のオモテの格子を外し、時代祭の見物で、竣工お披露目のご案内を頂戴した。残念ながら昨年の時代祭は台風でキャンセル、1年後の秋の楽しみとなった。御引渡しから3か月、今年の初めには大宇陀のボランティアガイドさん達の町家見学を受け入れて頂いた。きっちり直った外観と、元の町家のまま改修した内観に、写真撮影の舞台としての問い合わせが続いているそう。この報告記事の出る前、2月にはお母様の作品展でギャラリーとしてのお披露目を企画されている。近年画廊の店仕舞いが続く三条東山で、歴史の詰まった町家のまま、真新しいギャラリーが賑わいますよう。 <末川 協(作事組設計担当理事)>
2018.3.1 |