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京町家作事組

路地奥の長屋を引き継ぐ Nk邸

設計:中村設計 / 施工:大下工務店

 2017年3月にご相談、調査に伺ったNk邸は路地奥の5軒長屋の南端にあり、ご主人のご実家で、数年前までお祖母様が住んでおられた。友禅の伝統工芸士の家系で、現在は大阪にある展覧会図録等の製作会社に勤務されている。夫婦お二人で大阪からこちらへ転居の計画をされていた。
 1列二室型の典型的な路地長屋の町家は若干の改修はされていたものの、概ね当初の姿を維持されていて、内部についても、Nk氏のご家族が日頃から手入れされていたので、とても綺麗な状態であった。とは言え、屋根や構造、設備機器類等のハード面については改修の時期がきていた。
 お住まいなので、大げさな間取り変更や機能は無いものの、塞がれて二階の床となっていた火袋の復旧、水廻り機器 の更新やその他、壁、建具等の張り替え塗り替え、Nk氏のご希望もあり、元の町家の姿を取り戻しつつ、屋根、構造、設備、外壁を改修する町家改修としては理想的な内容になった。
 2月に工事がはじまり構造改修に掛かると例によってハシリの土間コンクリート下から、井戸を発見、さらに井戸の脇には30p四方程度の空洞ができていて、それが原因で大黒柱が80mm程度下がっていた。空洞の原因は井戸よりも恐らく古い給水管の漏水により周囲の土を剥きとっていったと考えられるが、とは言え、井戸をそのままにしておく訳にもいかず、穴埋めをした。井戸引きとその上の側柱は案の定、不朽、蟻害ですべて根継を行った。
 現状雨漏りはないものの、屋根は建築当初から葺き替えをされた形跡もなく、大分痛んでいたため、全面葺き替えをした。  
 意匠については前述の通りNk氏のご希望もあってシンプルイズベスト。セレクトされてきたキッチンや衛生陶器などは町家の空間にも合い逆に私自身も参考にさせて頂いた。古建具や出格子のベンガラ塗ではご夫婦で私と一緒にお手伝い頂き、白木で購入しベンガラで着色され油拭きをした舞良戸にはよろこんで頂いた。外されて2階の木置の窓に移動していた格子を元の出格子に戻して表構を当初の姿に戻した。
 今回のNk邸の改修では典型的な1列二室の町家を屋根、構造、外壁、設備と建物の維持健全化に必要なすべての改修ができ、内装や設備に至っても元の姿に戻したり、配管配線類を出来る限り露出にして、メンテナンスや後の改修がしやすいように施工した。
 町家にとって理想的な改修を実行され、ご実家に戻られてお住まいになる。その一助になれた事と町家の良さをたくさん引き立てて頂いたNk氏に感謝したいと思います。



ファサード



復元した火袋



ミセの間 


< 井澤弘隆 (京町家作事組)>

2018.9.1