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改修手順の作法・第4回

設計期
梶山秀一郎(作事組理事長)

§はじめに

写真1 “なんじゃこれは”
‘65年以降の改修は合板などが張りめぐされたものが多く、めくってみて重大な故障が見つかることが多い
 前章で述べたように町家には現代のような設計行為はなかった。現在、町家改修に設計者が介在している理由のひとつは戦後、お出入り関係が希薄化し、施主が職方に設計上の役割を期待しなくなったことと併せて設計者が木造住宅も手掛けるようになり、設計者と職方の間に一定の依存関係があるという消極的な理由と、ふたつには町家が40年以上に渡って省みられなかったことで、つくり守る技が失われていて、それを再生するためにはかつての大工棟梁の何割かの能力を分担する設計者と職方の協働が求められるからである。しかし施主と大工を頭とする職方が設計能力をもつ、すなわち町家を取り戻すことができれば今の設計者は必要なくなる。その点から言えば町家の改修には今言うところの設計はさほど重要ではなく、むしろ前章で述べた住み手とつくり手が町家についての共通基盤をつくるために町家と格闘するプロセスの方が重要と言える。むろんそれは設計者が無能でよいということでは全くなく、暫定的な橋渡し役であるという自覚と町家の本質を見抜く洞察力、そして現代の暮らしや技術と町家の本質とをすり合わせる創意・工夫、さらに施主と職方あるいは社会の間に立って事業を取りまとめる調整能力が求められていて、関係者の中では一番荷が重い。

§事前の調査が大事

写真2 事前調査
事前調査は職方総出で行うのがよい。

 作事組も5年経った今でこそ“なんじゃこれは”と言うことは少なくなったが、これは失敗の積み重ねの賜である。何でそんなことになるかと言えば町家が見向きをされなかった間の改修作法にある。町家は点検や手入れがし易いようにつくられているが、その点では今のつくり方は“今が良ければ後は野となれ山となれ”であり、床、壁、天井に合板類が張り廻してあって、柱や梁の状態が見られない、オモテの木部は大方ペンキが塗られているという状態で、それらをめくったり剥がすと柱や梁がシロアリにやられていて、取り替えや根継ぎが必要になる。あるいは何ともなく見えた木部はペンキ薄皮一枚で中は跡形もないということになっていたりする。直し手の一方的な言い分ではたとえ崩れかかっていて、まさに自然に帰ろうとしている状態でも放置されてきた方が確認もでき手入れもし易くてありがたいと言うことになる。まさか全部めくってしまってから“こんな状態でこれだけかかるがどうしましょうか”というわけには行かないので調査時に復旧が可能な範囲で部分的にめくってみて経験則で全体の状態を推し量ることになる。
 事前調査は設計者や大工だけではなく各職参加で行い、施主も立ち会って確認することが大切である。

§設計作法
 そもそも町家は間取りに番付(通り符号)を記し屋根のかけ方や床やタナなどの装置を板に描き込んだ板図と、平面割りと高さ割りを角棒に刻んだ尺杖だけで建てられてきた。今、見積りや図面で仕事をする機会が多くなった職人の便宜のために必要とは言え、設計図は必要最小限にとどめるべきである。理由のひとつは改修の場合は現物がそこにあるからであり、ふたつには現場で設計図が制度の役割をしてしまって、職方の自律的なもの作りの情熱をそいでしまったり、創意・工夫を妨げることがないようにするためである。

写真3 CGパース
リアルではあるが現場での自由度を制約する可能性もある。

写真4 手書きパース(計画提案)
できあがりイメージを伝え現場での工夫を促すためには手描きの方が良い。

 設計図に求められるのは施主と設計者の想いに食い違いがないことを確認できること、見積りの落ちがないようにすること、そして職方に住み手や設計者の想いが伝わることである。具体的には平面図に仕上げなどを書き込んだものと揚舞いや根継ぎなどの施工項目と材種などを記した仕様書及び設備機器類の位置、数、仕様を記したものは不可欠である。それ以外はできあがりイメージを伝えられるパース─CGパースはできあがりを的確に伝えられるがイメージを固定化するため手描きが良いかも知れない─などであるが、場合によってはできあがりイメージは口頭でも良い。
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