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改修手順の作法・第5回

改修作法〔その1〕
梶山秀一郎(作事組理事長)

 今まで4回にわたり、改修の手順に従ってそれぞれの場面で大切だと思われることを述べながら設計まできた。しかし手順や心がけが自明のこととして書かれていて、なぜいまさら町家について勉強したり要らぬ努力をしなければいけないのかということはあまり説明していない。ここらで作事組が町家をどのように捉えてどう直そうとしているのかについて、すなわち改修作法について明確にしておこうと思う。その方が設計までの手順を復習理解し、続く改修工事についての理解もし易くなるだろうということと今までの独善的な物言いについての反発がやわらげられるだろうと思うからである。
1.改修方針
家を長持ちさせる改修を優先する
 町家は手入れをしながら代々引き継いでいくように作られている。代々といっても必ずしも血統や「家」ではなく、利用という観点から「家」を代え人を代え住み継がれてきた。それを支えたのはひとつには町家の使い途における包容力であり、もうひとつには雨風から家を守り、点検・手入れを容易にする技である。

 間取りはなにも置かず用途を限定する装置もない室が並び、仕切りは開けたて容易な建具だけである。その室列をトオリニワが繋ぎ、室を独立させることも一体化することも自由である。そんな無限定で可変性の高い間取りが八百屋にも呉服屋にも作業場にもそして住まいにも対応する包容力を与えた。確かに特定の、たとえばオフィスが求める合理性に関してはベストではないかもしれない。しかしオフィスが余り事務所ビルをマンションに変えるために首をかしげながら頭をひねるというような無駄がないだけ合理的である。
 屋根の瓦はトントン(土居葺き)の下地に瓦の谷部分にだけ土をおく筋葺きである。下から上に雨が降るあるいは屋根が水溜りになるようなときに縦の継ぎ目から洩れた雨は土と土の間のトントンの上を流れ軒で排出される。たとえ室内に漏水しても漏れ続けない限りトントンや天井の通気性で乾いてシミも残らない。土葺きであるため粘着性によって強風時に共振しにくく飛ぶことも少なく、釘で止めないため割れ替えやズレ補正も容易である。
 壁は土壁であることで雨、風、熱から建物を守り、塗り重ね、塗り替えも容易である。土自体は雨に弱いが平(表、裏)は軒の出で守り、下屋の跳ね返りは前包みで保護し、妻(横)は焼き杉板で覆い約50年ごとに張り替える。
 腐朽しやすい便所や風呂の水廻りの棟は主屋から切り離す─臭気を切り離すと言うこともある─。井戸やハシリは屋内にあるが井戸の上に井戸引(梁)を渡し、腐朽したら井戸引の下部の軸組だけ取り替える。
 構造上重要な柱や梁の骨組みは壁のどちら側かに露出していて、容易に点検できる。隠れた部分も床下に潜り小屋裏に進入すれば確認できる。仮に見過ごして腐朽を招いたとしても腐朽しやすい柱の根元は曲げる力がかからない(基礎に止めていない)ことと一本一本の柱が独立していることで、根継ぎができる。柱と梁、梁と梁は仕口で嵌めてあるだけであり、取り替えも容易(?)にできる。使用条件が過酷で傷みやすい1階の床組は骨組みから切り離されていて単独で補強や組み直しができる。
 造作のうち摩耗し易く力がかかる敷居は“敷居を踏む”─本当は踏んではいけない─ということが造作の完了を意味するように、最後に嵌めるため外して替えられる。床や屋根の荷重の影響で下がりやすい鴨居は吊り木で吊り、裏で簡単に止めてあるため、下がったら引き上げられる。
 以上は町家を長持ちさせるための特徴的な配慮や技の工夫であるが、振り返ってみた現代の木造在来軸組構法はこれらの配慮や工夫を引き継いでいない、というより全くひっくり返っている。先達の成果を引き継ぐべきだということもあるが、約40年間ひっかかりを持ちながらも黙認してきて、今さらに叫ぶ「持続可能な社会」を取りもどすための指針となるべきテキストとして、町家の改修にあたっては家を長持ちさせる改修を優先したい。
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