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改修手順の作法・第10回

改修作法〔その6〕技術編3
梶山秀一郎(作事組理事長)

4)通風、通気が自然にできるようにする

通気性が大事 
屋根下地のトントンのそこかしこに雨漏りの後が見えるが、面戸から光が差し込んでいて、家は傷んでいない。床下や小屋裏を覗いて光が見える町家は大丈夫。

腐朽した井戸引き 
キッチンで封鎖されていたのと、後補で煉瓦積みモルタル塗りとなっていたため、シロアリにやられてしまった。
 モンスーン気候帯の最東端にあり、冬は偏西風が、夏は東南から風が吹き、いずれの風上にも海水を湛える列島日本は、降水により緑豊かな大地を育み、明確な四季が風景を彩る、自然の恵み豊かな希有の国である。しかし一方で頻発する地震、台風、熱波の脅威にさらされる災害列島でもある。そのなかにあって、人の暮らしを包む住まいが克服すべき課題も多い。わけても重大なのが日本の気候の特徴を端的に言い表す、夏期の高温多湿である。それは人には耐え難い蒸し暑さをもたらすが、カビ、病原菌、腐朽菌、シロアリ、にとっては最適環境である。そしてこの課題は他のそれとは次元を異にし、これをクリアーしないと次には行けない第一関門である。火事で燃える、地震で壊れる、風で飛ばされるまで、建物が持たないということではあるが、そもそも、自然界には有用であっても、人の暮らしにはありがたくない菌類も含めた、自然との共生関係が成立しない。克服の手立ては通風、通気による適度の乾燥しかない。ちなみに、第一関門の不合格者第一号は今の建築基準法が適法とする、在来軸組構法であり、国が奨励する高気密・高断熱である。人が閉じた人工環境のなかでわが世の春を謳歌していると錯覚しているかたわら、人体はハウスダストに、シェルターは疎ましい共生者に日々蝕まれていく。
 室内は、気化作用で蒸し暑さを和らげる風を通さないといけない。一方、風通しまでは必要としないが、床下、小屋裏の通気は不可欠である。さらに、壁、床、屋根自体にまで隈無く通気性が求められる。すなわち伝統的民家、イコール町家のようになっていないといけないのである。
 改修に当たっては町家の通風、通気性を損なわないようにしなければいけない。現代の難題は断熱材と屋根の防水材である。断熱材は室全体を暖めたり冷やしたりすることが前提に適用される仕様であるが、隙間だらけの町家では、それはもともとあきらめたほうが良い。屋根防水の難題はトントン(土居葺)が廃れたことで、その代替え構法が抱える課題である。ルーフィング類はいずれも通気性がなく、多量の水分を含んだ暖気が小屋裏にたまり結露を招く。トントンは軽くて通気性があり防水性も高いうえにコストも低かった。葺き替えに当たっては、杉皮で補修して、できるだけ既存を残すようにしたい−風で飛ばないようにして−。またトントン葺きを復活させる努力と、通気性と防水性を備えた、自然素材による──化学繊維のものはある──防水仕様の開発が望まれる。
5)湿気を避ける

漏水による地盤の陥没 
排水の土管から漏水し、地盤の土砂が流亡してカズラ石が宙に浮いている。
 理由は上記と同様である。湿気の原因は下記のように種々あり、現代的な原因が多い。
・キッチンや洗面化粧台を箱形にして設置することで、配管の漏水や水の飛び散りが見過ごされ、裏側に湿気がたまる。
・トオリニワに埋め込まれた給排水管や排水桝廻りからの漏水。
・床下の地盤レベルより廻りの庭、ロージの地盤が高いために、雨水が床下に進入する。
・1階床−ハシリの床組が多い−を板張りにすることによる、漏水の見過ごしや通気障害。
・隙間風を防ぐために、縁側の下の空きを塞ぐことによる通気阻害。
・修理用の瓦や木材を床下に保管することによる通風阻害。
・畳下に防水紙を敷いて通気を阻害。
・外壁をモルタルで補修したために起こる、吸水による漏水や防水紙の結露。
・大壁改修による、壁内漏水の見過ごしや内部結露。
・断熱材による床下、外壁、2階天井、屋根の密封。
・空調をするための閉め切りによる、通風、通気障害。
・上記、屋根の防水紙によるもの。
 改修に当たっては以上の各障害や故障を起こさないようにする。  
2005.5.1
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