• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家作事組
京町家の技術 その二

町家の改修をめぐって
荒木正亘(アラキ工務店) 


 住宅を改修するとき、もの凄く高くつく場合と割合に利口な金額で出来る場合があります。無垢(むく)の木を使ったとして、あまり良い材ではないのに或る大工さんは坪200万円必要と言い、別の大工さんは50万円で出来るということが起こります。特に、町家の増改築ではその開きが一層大きくなります。一部が腐っている柱についても、ここで継いだら簡単に根継ぎが出来るのに、古い材を上手に利用せず新材に取り替えてしまうという大工もいます。このような事が積み重なると大変な費用がかかってしまい、これはもう修復ではなくて、部材の入れ替えということです。こうした安易な改修方法を採る施工者の存在も、〈修復するよりも壊してしまって新築した方が安く出来るという誤った認識〉を町家居住者に持たせてしまう原因になっています。

 先日も、「もう土蔵が倒れて潰れかかっているので診断に来て欲しい」と京町家作事組に診断の要請があり、どんな家かと思いながら仲間と行って来たのですが、全くどうもありませんでした。ただ、10センチ程下がっていて、表がガレージのある「看板建築」になっていました。しかし、沈下しているところはジャッキアップすれば簡単に修復出来ますし、改装以前の写真を見せてもらったところ、出格子のある完全な形の大変立派な京町家で、取り外したそれらの部材を全て土蔵の中に残してあるとのこと。早速「もう一度元へ戻したらと」提案したところ、「是非とも再現したい」という返事が帰って来ました。

 或る設計事務所の人が見に来て「これは5年以内に壊れる」と言われて、どうしたものかと心配になって作事組に相談したとのことでしたが、こういう設計士がいるのは困ったことです。それと、ガレージを作ったときに大黒柱の通りの梁を全部切ってしまって柱も抜いていることです。それで、二階の床はふわふわして大変危険な状態です。普通はこの通りの柱は抜かないのが常識ですが、それを無視してガレージを作っているのです。間口が7メートルもあるので、これらの柱を抜かなくても反対側に十分ガレージが取れたのにどうしてこんな事をしたのでしょうか。こういう施工者がいることも問題です。増改築する場合は、必ず以前より耐震的に補強して丈夫にするべきです。

 我われ施工者が昔から理想としているのは、設計事務所はデザインとプランニングをして、後のことは施工者に任せるという関係です。それともっと大切なことは、設計者と施工者と施主がゆっくり話し合うということです。新築の場合には、当然、設計者と施主の話し合い、設計者と施工者の打ち合わせという分離が必要でしょう。しかし、古い町家を改修する場合には、設計者と施工者と施主が同じ土俵の上で、対等の立場で、改修計画を図面化するまでに十分話し合うことが重要です。こうなれば、施工者も問題があるところを指摘し、工夫した施工方法を提案したりできますし、お互いにアドバイスをしながらより良い改修プランが実現出来るでしょう。三者の理想的な協働が京町家の再生を可能にするのです。