• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家作事組
第110号(2016年11月)

◎10月の報告

5日(水) 棟梁塾座学17「安全管理からみた電気設備」
9日(日) 棟梁塾実習15「ガス・給排水設備の納め方と注意点」
14日(金) 理事会
19日(水) 棟梁塾座学18「家具、材料、仕上げ、漆」
28日(金) 理事会
29日(土)
30日(日)
作事組全国協議会第5回姫路大会


[作全協第5回姫路大会報告]


駅コンコースに姫路市が掲げた幟
 去る10月29, 30両日に第5回総会及び研修会が姫路で開催されました。姫路は8年前に作全協設立準備会が開かれましたが、その後活動が停滞気味でした。町家改修第1作目が着工されたこともあり、活動再開を期する大会でした。

 役員会、総会及びシンポは広大な敷地に姫路文学館北館、南館および大正初期に建てられた望景亭が残る、旧濱本家住宅で開かれました。シンポは昨年2月以降、姫路・町家再生塾と本部との間で相互訪問、職方同士の交流や意見交換を重ねて、職人の語りを通して市民に町家の良さを、知ってもらう場にしようと決まっていました。パネラーは姫路周辺−姫路市中心部には伝統構法を手掛ける職人はいないとのこと−で伝統木造の新築を手掛ける若手大工(工務店)3人と大下さんそしてコメンテーターとして荒木さん、コーディネーターは町家の町並みを愛する町の版画家・岩田さんです。参加者は作全協会員とマスコミや口コミで集まった一般市民57名の方々でした。建築の素人を自任するコーディネーターのみるみる減り続けてきた町家に未来はあるか≠ニの問いかけに、大下さんが孫に引き継がれる京町家の事例で応え、「伝統木構造の会」に所属する若手大工は日頃の伝統木構造新築を手掛ける姿勢を、淡々と語るところから始まりました。町家が認知されていない姫路の一般市民向けとしては、唐突だったかもしれませんが、改修第1作目のSm邸ご夫妻の改修に至った動機や、初めの町家の見方がいろいろ学ぶにつれその良さが見えてきて、完成が楽しみという話に、市民も何らかの関心をもたれたと思います。最後は、家は買うものではなく建てるものだという岩田さんの意見や、町家は職人と姫路の町衆で守るということがシンポのまとめになったと思います。

 分科会は第1がSm邸の改修現場で改修方法についての意見交換会でした。隣家側の柱の沈下の原因と揚げ前の仕方、壁の改修方法と既存壁土の再利用、更新を考慮した電気設備の配線敷設方法や機器の取り付け方などについて、職方同士で意見交換がなされました。終了後立派な町家の魚橋本家、魚橋呉服店を見学させていただきました。
 
 第2が相隣問題でした。西国街道に面する江戸時代から大正時代にかけて建てられ、京都から職人を呼んだという、数寄屋風の立派な町家の初井家で開かれました。まず初井さんの案内で邸内を見学させていただいた後に開会。パネラーから相隣問題の体験談が報告され、金沢では戸建てが一般的な中に長屋があって、隣家の協力が得られず揚げ前ができなかった事例や、塀でもめていて改修ができなっかった事例が、京都からは隣家のマンション建設時のケラバ切の要求を、粘り強くデベや市を説得してケラバを残した事例、改修の障害になる隣地の塀を解体・再建する必要性を、マンション側に根気よく説明することで、良くなかった相隣関係を修復した事例が報告されました。初井さんからは隣のビル建設の際に町家に不適切な扱いをされ、また建て替えの際故障が生じ、係争中であることが報告されました。意見交換の後、隣とうまくやりながら改修を進めるための手立てとして、町家保全・再生を行う組織に仲立ちしてもらう、我々が事前に予想される問題や町家の大切さをアドバイスする役割を果たす、改修は町家に精通した大工に頼むの三つが提起されました。
 
 第3が伝統木造についてで、材木町の姫路・町家再生塾の拠点である「しょうあん」で、その家主である森家住宅を見学させていただいた後に開会しました。まずコーディネーターの中島さんから熊本地震の被災調査の状況と、再建に当たって何らかの文化財指定を受けているものと、そうでないものとに差が出ていて、登録して置くことが重要だとの報告がされました。パネラーからの報告では、まず確認審査機関に所属し構造を担当する姫路の景山さんが、伝統木構造で建てるために、限界耐力計算や基準法第3条4号の特例を適用する方法、伝統構法に現代の技術を取り込み現代の要求に合わせることの大切さを話され、伝統木造構法で新築を手掛けられる尾上さんは、置き屋根工法の断熱性検証の、同じく小川さんからは発酵土の環境浄化作用の検証の試みの報告があり、内田さんからは京都の現場での伝統構法に沿った改修工法の説明と、簡易宿所などの用途変更案件が多く、用途変更を100u以内にして確認適用を避けていることが報告されました。それについて景山さんが用途変更の確認申請では、危険性が増大しないことが条件で、荷重を増やさない、構造部材を撤去しないことが必要だとされました。まとめとして中島さんから長持ちでランニングコストが少なく健康に過ごせる家を作る、伝統構法の実例を増やすことで伝統工法を継承する、基準法を乗り越える方法の模索、2代3代と継承できる家を作るの四つが提起されました。
 
 報告会は翌日、大正時代建設の木造校舎、講堂が町並みを形成する、姫路工業大学講堂・ゆりの木会館で開かれました。終了後、イクスカーションとして、漁業と物流で栄えた網干と、汐待、参勤交代の宿場や開運で栄えた室津を見学しました。大会全体を通して作り手と市民、行政を結びつける役割と、地域活動の応援団としての役割が大会に求められているとあらためて感じました。ある参加会員からは姫路市内に多くの町家が残り、近傍にもかなりの歴史資産の集積があり、先ずは至急残存調査をして実数把握をする必要があるとの指摘がありました。
 
 次回は役員の要請に快く応えていただいた、なら・町家研究会の奈良に決まりました。

京町家作事組監事・作事組全国協議会会長 梶山秀一郎

工事実績: 234件
相談件数: 635件
('99年〜'16年10月30日現在累計)