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京町家作事組
シリーズ「作事組の仕事」・その1

作事組事務局の仕事

松尾優子(作事組事務局)

 京町家作事組の事務局が新町花屋町に移って、そして移転と同時に事務局に就いて早3年半が経とうとしています。そこで、改めてご相談から改修にいたるまでの流れをご紹介したいと思います。

 電話、インターネットそして今までに改修した方々や京町家ネットからのご紹介など、入り口は様々ですが事務局に改修相談が入ります。電話で家の概要や改修のご希望あるいは心配事を話してくださることもあれば、事務局まで資料を持って出向いてくださる熱心な方もいらっしゃいます。相談の内容がどんなであれ、どなたも改修費用はどのくらいになるのか、工事期間はどのくらいかかるのか知りたいところだと思います。ただ、名前も場所も明かさず、訪問することも許されず「どのくらいかかるか聞きたいねん。だいたいでええねん」という電話がたまにかかってきます。だいたいでええと言われても、町家は新しくても80年くらい経っていますし、構造の状態や、良い意味でも悪い意味でも今までどのくらい手が入っているのかということは家により違います。傷み具合は実物を見て、調査をしてみないことにはわかりません。こういう方は2度目の電話がかかってくることはありません。


図1 和田邸(作事組事務局)中庭
 また、困ったことに「改修は高いでしょう?」とか「新築のほうが安いんでしょう」と言われる方もいらっしゃいます。高い、安いは何と比較して決めるのでしょうか。サイディング貼りの外壁にビニールクロスの内壁、塩ビ貼りの造作材や建具を使った家と? 残念ながらこういう方も、金額だけを比較の対象としていらっしゃるので、現地調査して見積を出しても、着工に至ることはありません。予算はないけど生まれ育った家を、おじいちゃんの家を、高齢の両親のために直したい、など町家への愛情、愛着たっぷりの方に出会うとホッとすると同時に何とかしてあげないと…と思います。

 さて、話がそれましたが、伺った相談内容をまとめて、基本的には、2週間に1回開催される理事会で相談員を決めます。選出された相談員(設計者、施工者各1名)と事務局で現地を訪問し、今度はもう少し詳しいお話を聞きながら調査、実測を行います。設計者と施工者がペアで訪問するのは、その家の問題点や要望を叶えるための構造の状態を確認するなど、改修の提案や実際の改修をする上で、両者が共に知っておく必要があるためです。

事務局ファサード
図2 事務局ファサード
 実際に現地でお話を伺うと、今までの改修のことはもちろん、今は引退されている方が子供のころに、おじいさん・おばあさんから聞いた新築当時、嫁入り当時のことや、昔のお商売・近所のお祭りではこんな風に家が使われていたなど、いろいろなことをお話くださいます。これは後に改修の提案をする上でも、大変有用になってくることがありますので、遠慮なくお話しいただきたいと思います。

 後日、現況図・簡単な提案図・工事費の概算を提出します。ここまでは費用はかかりません。先に話が進むようであれば、何度も打合せを重ね、要望と費用の折り合いがついたところでようやく契約、そして着工となります。家の傷み具合や、改修規模などで違ってきますが、全面改修で4ヶ月くらい見ておくといいでしょう。

 着工してからも、担当者と施主が現場打合せをして、あるいは担当者と作事組の理事会が改修の方法を検討しながら工事が進んでいきます。工事が完了したら、担当者とは別の設計者・施工者と事務局が検査員となって、当事者では見落としがちな点をチェックします(完了検査)。この時の指摘事項を手直ししてのお引渡しとなります。そして、同じ検査員が同様のチェックを1年後にも行います(1年検査)。

 それ以降は、どんなことでも設計・施工担当者にご相談いただいたら、作事組の目指す「出入りの関係」を築くことにつながります。長年大切に使われてきた町家を、この先同じ年月、いえそれ以上にわたって、大切に住み継がれていくことが、現場で働くもの、作事組の喜びであり、願いでもあります。何なりとご相談いただけたら幸いです。


(2006.9.1)