• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家作事組
シリーズ「作事組の仕事」・その3

仮称『町家が守れ、建てられるようにする市民会合』準備会

内田康博(作事組理事)

 町家への注目が高まっている。町家を改装した飲食店や物販店はますます増える様子で、事務所や作業場、アトリエやギャラリーなどさまざまな用途で使われ、宿泊施設としての町家の人気も高いと聞く。古い町家を直して使おうという事例が増えるのは喜ばしいことである。しかし、ひとつ石の上に柱を立てる伝統的な構法の町家はすべて建築基準法上の既存不適格建築物で、新築することはもちろん、大規模な改修や模様替えもできないのが現状である。文化財に登録された町家は基準法の適用除外の規定があり、元の通りに修復する道が残されているが、そのような除外規定とは無縁の大多数の町家はいずれ消滅してしまうことになる。
 行政も町家の保存を模索し、町家を守るための努力はさまざまな形で行われ、各種の補強方法や防火措置などにより建築基準法に適合させる手法が開発されてきている。それも町家再生のひとつの道筋とはいえるが、日本の伝統的な構法とは元から成り立ちの違う建築基準法に適合させることが本当に必要なのか、それが町家を安全に長持ちさせることにつながるのか、そうすることで町家の本質や美点を損ねることにならないか、再考する必要があると思われる。

 そこで、京町家再生研究会を主体とし、作事組が運営担当となり、仮称「町家が守れ、建てられるようにする市民会合」準備会として、2006年の5月から11月にかけて6回のミーティングが開かれた。呼びかけに賛同して、京都で町家に関わる(社)京都府建築工業協同組合、(社)京都府建築士会、古材文化の会、西陣町家倶楽部ネットワーク、関西木造住文化研究会などのメンバーが話し合いに加わっているほか、各回のテーマごとに、町家の住み手、町家・まちづくりの世話人、防火防災の専門家などにお話を伺い、同時にメンバーに加わっていただいている。
 町家の住み手からは、町家を通じて伝えることができる文化があること、町家に住むことで5感を通じて感じる木や土の香り、風の心地よさ、高い天窓から落ちる光の美しさなどについてのお話などがあった。現代的な戸建住宅やマンションに住む経験から、町家の良さを改めて見直すことができたとのことだった。また、町家を住みやすくするために、水周りなどの設備を充実することも必要であるとのご意見をいただいた。
 町家・まちづくりの世話人として活躍される方々からは、町家に住んでいる人やこれから住む人の町家への理解が深まる必要があるとのお話があった。

 また、勉強会として防火防災の専門家をお招きして町家の防火性能についてお聞きした。消防局のデータから、火災の原因は放火やタバコの不始末など人為的なものが大半を占め、耐火構造の建築物でも木造の建物と同様に火災が起こることがわかる(表参照)。油断をすればRCのマンションでも火災は起こる。火災への対処として、建物の防火性能を高めることも必要であるが、火災が起こらないようにする心がけ、早期に発見して消火すること、消火できないときは速やかに避難し、消防隊の力を借りることが大切であり、京都市の火災発生件数が全国的にみてとても少ないのは、建物の防火性能に依存するのではなく、初期消火の準備や防火意識を高めることなど、日常の備えによるものと思われる。土壁が塗られ、瓦が葺かれた町家の防火性能をことさら上げる必要はないと考えているとのお話が印象的だった。

 次回の勉強会では木構造の専門家をお招きして町家の構造についてお伺いする予定である。
 町家が守れ、建てられるようにするには、構造・防火など各専門分野からの検討はもちろん、行政や一般の住人の方々の理解と協力が必要となる。また、大工や職人などの技術の伝承、木材や壁土など材料の流通の確保のほか、町家での暮らし方も再確認する必要がある。今年度は準備会、勉強会の段階であるが、近い将来、町家が守れ、建てられるようにするために、市民会合として関係する全ての人々との連携を広げて行く予定である。

■京都市の建物火災状況(構造別、平成17年)
木造
防火構造
準耐火
耐火
その他
91
17
20
75
9
212

 
■大都市の火災件数

出典:京都市消防局パンフレット『京をまもる2006』
■主な出火原因
平成17年
放火(疑含)
85
たばこ
46
コード
14
天ぷらなべ
13
電気ストーブ
13
ガスこんろ
11
石油ストーブ
7
ガス類引火
5
たき火
5
交通機関内配線
4
排気管
4
ローソク
4
電気クッキングヒーター
4
ライター
4


(2007.1.1)