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京町家作事組
シリーズ「作事組の仕事」・その4

作事プロダクション

松尾優子(作事組事務局)

 京町家作事組では、各種取材協力、講演会やセミナーへの講師派遣、見学会の主催や受け入れなど、さまざまな依頼や企画がありますが、そういうことすべてをひっくるめて「作事プロダクション」と呼んでいます。今回は先日受けた取材のときに感じたことを書かせていただきたいと思います。
 事務局に、ある企業PR誌の取材依頼の電話が入りました。こういう時、たいがい警戒しながら応対をする癖がついてしまっています。というのも、町家のことなど何も知らないまま、ブームというだけで、まともに企画もできていないでたらめな依頼や、ピント外れな質問をしてくる人が増えているからです。ただ、今回は少し違っていました。内容を伺っても、相手の中にきちんとした筋書きができている印象でしたし、ともかく企画書を見てみないと返事ができないというと、すぐに企画書がファクスされてきて、企業PR誌のバックナンバーが郵送されてきました。また、こちらから言うまでも無く、作事組が監修した2冊の本に目を通して、基本的なことを消化された上での取材となりました。
 取材を受けるということは、そのあいだ現場は手を止めさせられたり、邪魔になることもあるわけで、勘違いした取材者によくある「取材をしてやっているぞ、嬉しいだろう」というようなわけでは決してないのです。事務局としては、どこまで取り上げてもらえるかわからない取材のために、現場で人を待たせることも、作業の邪魔をすることもできるだけ避けたいわけですが、取材当日は、事務局で副理事長のインタビューの後、現場を3軒、すでに改修したところを1軒まわるスケジュールを、あらかじめ打ち合わせをした所要時間にズレること無く、各現場をスムーズにまわれました。そして行く先々では各職方さんや施主さんへの挨拶や配慮も怠ることなくしてくださいました。
 町家に住みたいと考える方が、工事現場を見ても出来上がりを想像できず「こんな汚いところには住めない」と感じる方もいらっしゃると思います。それに対して今回の取材者は、先日まで賃貸物件だったと聞いて、「ここに書棚を作って、この壁にあの絵を掛けて……」と自分が借りることを想定して、あれやこれや具体的に想像を膨らましています。現場で作業を手伝っていた施主さんも、現場担当者もそして私もなんとも暖かい気持ちにさせてもらいました。
 できるだけ簡単に済ませて、時間を取らないようにと思っている事務局の思惑とは裏腹に、いつもは難しい顔をしている大工さんも手を止めて、面倒を厭わず協力してくださったり、左官の取材だけだと伝えているのに、なぜか担当設計者、現場監督、大工棟梁まで勢揃いで見守っていたり、普段は忙しくてこういうことのために出てきてくれない理事長までもが、何やかんや理由を付けて現場に来たり。要するに、作事組の現場で働く職人さんも設計者も、みな町家が好きで、手がけている物件や仕事を見てもらいたくて仕方ないのです。左官だけなんていわずに、かわいいわが子のこと全部を自慢したくて、仕方がないのです。町家の現状を訴えられるなら、少々忙しくたって、説明したいのです。
 しっかりと下勉強をして、聞き上手で、こちらの喜ぶツボもわかっているプロ意識を持った取材者に、あらためて自分たちのやっていることを再認識させてもらい、また町家のためなら暇を惜しまない作事組のメンバーのような、こういう熱意に京町家は守られているのだなぁと感じる1日でした。そして、そういう人々に囲まれて町家改修のお手伝いをさせていただいている事務局は、この思いをもっと多くの人に知ってもらうために、気合を入れて「作事プロダクション」を運営していかなければと、身の引き締まる今日この頃です。

写真はすべて、作事プロダクションによる、セミナーやベンガラ・三和土の体験実習会、見学会のようす

(2007.3.1)