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京町家作事組
シリーズ「作事組の仕事」・その5

「材料・工法アンケート」─流通委員会の活動

内田 康博(作事組理事)

 京町家作事組では、設立以来、数多くの京町家の改修・再生を実施してきました。改修現場では、町家本来のありようを探り、町家の特性をいかすとともに、建てられたときと同じ工法や材料を使用して、次世代へと引き継いでいくことを目標としてきました。長い歴史の中で取捨選択され、適材適所の当を得た伝統的な材料や工法は、やはり最も優れたものであると考えられるからです。
 しかし、昔はあたりまえに流通していた町家の材料が、今では価格や流通の問題で代替材に頼らざるをえなかったり、工法や技術が安易に現代的なものに置き換えられたりしています。
 そこで、これまでの改修活動の中で、本来使われるべき材料や工法についての問題点を探り、どうすればそれらを実現していけるのかアンケートを実施し、その結果をまとめました。個々の現場での問題点や悩み、工夫や解決策などを共有し、今後の改修活動の中で生かしていくことを目的としています。

 まず昨年の8月、作事組のなかで設計にかかわる設計事務所や工務店から、各工種別に問題提起を募るアンケートを実施し、それをもとに同年11月に施工に携わる工務店や職方から現場での工夫や問題点などについて意見を求めるアンケートを実施しました。
 その返答からは、各現場で最良の材料や工法を使うための工夫とともに、現代の常識とのせめぎ合いが見えてきました。
 町家を構成する主要な材料である木材についてみると、梁や胴差、床板や畳下地の荒板として使われる国産の松材が手に入りにくいとの返答が多くあります。材木店には在庫がなく、あっても稀少なため高価で、しかも用意には時間がかかるため工期に間に合わないのが現状で、どうしても使う場合は古材のストックを使用するなど個々の工務店のやり繰りに頼ることが多いようです。日本の食糧自給率が熱量ベースで40%程度といわれますが、木材の自給率はその半分の20%まで落ち込んでいる現状を反映していると考えられますが、国土の3分の2が森林に覆われ、その4割が人工林である日本にあって、京都周辺にも松の木はたくさん育ち、伐採を待っている現状をみると矛盾を感じます。木目が通って節が少なく、安価で在庫が揃っていて手に入りやすいという理由で、国産の松に似た材料として輸入材の米松が使われることが現在の常識のようになっていますが、経年変化と手入れにより黒光りする表面のツヤは国産の松ならではの美しさであり、中身の詰まった節や歪んだ木目は割れに対する抵抗力や粘り強さにつながるもので、総合的にみて、やはり国産の松に替わる材料はないと思われます。松に限らず、日本の気候風土、地域の気候風土に合った木材はやはり日本で育ち、地域で育った木材であると考えられます。長い目でみて最も優れた材料を選ぶには、施主、設計者、施工者による話し合いを通じ、お互いの求めているものがなにかを理解しあうことが必要と思われます。

木材の供給量と自給率(出典:林業白書)

 山に松が生えているのに材木店に在庫がないのは、需要が少ないためであり、流通が少ないためであると思われます。大勢として輸入材に頼る現状の中にあっても、小さくても国産材が流通する流れがつくれれば、手に入りやすく、使いやすくなると考えられます。このアンケートをきっかけに、作事組では材木店を指定して国産材流通の流れを作る試みをはじめているところです。
 土壁に関しては、手間と工期を節約するために、下地として木舞と荒壁塗りに替えてラスボードとすることも多くみられます。しかし、さらに手間と工期を節約すればプリント合板張りや石膏ボードにビニールクロス貼りの壁となることを考えると、節約は必要であっても、それが目的となってしまうと求めているものを見失うことになりかねないとの危惧を感じます。
 畳については、スタイロフォームを挟み込んだ畳床が安価に流通していますが、本藁床の畳と比べて感触が硬く、湿気を通さず、長く使ってへたりが来ても補修の範囲が限られます。本藁床であれば、年に一度畳を上げて風を通すなどの手入れをすれば半永久的に使用でき、へたりが来ても補修が効き、感触はやはり他には替えられません。
 瓦葺の下地として、安価で施工に手間がかからず水を通さないアスファルトルーフィングが一般に使われますが、湿気も通さないため屋根裏に湿気がたまり、屋根下地や垂木、母屋の腐朽の原因ともなります。トントン葺きであれば空気も通り湿気を逃がし、豪雨や台風時に一時的に雨漏りがあってもすぐに乾くため問題ありません。

(2007.5.1)