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京町家作事組
シリーズ「作事組の仕事」・その11

棟梁塾 第1期2年間を終えて

荒木正亘(京町家棟梁塾 塾長・作事組副理事長)

 そもそも私の自論では、今日の職人達が昔と違い、自分の業種の内容に精通している人達は多くいても、他業種の仕事の内容や特性を知る人が少ないと思っている。建築に携わる者として、浅く広く全般(特に京町家)の様々なかかわりを知ることの大切さを、一つでも次の時代の職人たちに伝えたかった。私はこんな目標を自ら立て、棟梁塾に取り組んできたつもりである。また町家再生の意義は、京都に生活し、町家改修を生業とする業者に課せられた大きな課題の一つでもある。
 開講にあたり、塾生の年齢の開きが大きく、塾生自らの携わっている仕事の違いが多種に渡り、私は初め戸惑いを感じた。しかし塾生の皆が夢と目標を持ち、自分の日常の仕事を終えてから、食事抜きで座学に励む姿勢に感銘を受け、少しでも多くのことを塾生に知ってもらうため、私も少しは勉強することができ、2年間塾長と常任の講師を続けることができた。まだまだ伝える事が多く残っているが、今後は自分で自分のビジョンを描く以外に道はないと思う。塾生たちは座学、見学、実習と、ハードな取り組みの中で、良き体験を得られたと確信する。
 京町家作事組会員の、多くの講師を担われた先輩の皆様の、見識の広さ、自分の仕事に対しての深い思い入れが肌で感じられ、作事組会員の粒揃いに安心感を覚え、私の未熟さに恥じ入ることも多くあった。実習の中での京町家の改修現場では、塾生たちが初めて京町家の構造や工法を自ら体験することができた。理解のある施主、その工事に携わった工務店が、京町家再生の意義を皆に広める手立てとして、京町家作事組メンバー企業の良き仲間の、理解と努力により、初めて取り組むことができた。

 座学で多く話を聞き、多く学ぶ事も大切であるが、やはり実習に勝るものはなく、塾生自ら手を汚し、汗を掻き、慣れない道具を使い、町家再生を体験の中から見につける事が、仲間意識を高め、他業種の苦労を多く知り、京町家再生の大切さを認識する大きな機会となったことだろう。教養で身につける大事なものにお茶やお花があり、その実習では、普段の心構えを楽しさの中で身に付けられる事と、何気ない仕草の大切さを読み取ることができた。
 私は日本の木造建築は、世界一と思う。庶民の木造建築であり、木目や節のある材を手で撫でられ、その美しさを感じさせ、その優しさを見せる木造住宅・伝統工法の大元であるのが町家である。それが日本の中で最も多く残っている京都で、町家再生に関わることができる職人の中に位置することができて、幸せそのものであり、ありがたいことである。そのことが塾生に少し伝えられただろうか。今後塾生たちは、ものを見る目が大きく変わり、心を豊かに培い、次の時代の担い手として十分に世の中にかかわり行くことができると信じてやまない。

(2008.5.1)