• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家作事組
シリーズ「作事組の仕事」・その13

町家を守りたてられるようにする市民の会合

梶山 秀一郎(作事組理事長)

 町家のヒト、モノ、コトを立場を異にする関係者が対等に意見を交わす。こんな場は今までなかったに違いない。毎回熱い議論が繰り広げられ、参加者からは目からうろこ%Iな感想から、ここで示された町家の姿やありようを社会に訴えるべき−何をモタモタしているのか−といった叱咤まで、願ったりかなったりの意見が出された。
 本誌Vol.057で開催趣旨を述べた本会合が4回を数え、残すはあと1回となった。ここでこれまでの会合の様子を紹介しておこう。

 第1回はテーマが「町家の暮らし方と快適性」、参加者が35名内一般参加者(準備会メンバーをのぞく)21名。いきなりパネルディスカッションから始まり、パネラーは大井、市古、秦、小針各氏でコーディネーターは高林氏。ここでは町家を多面的に評価する見解が出された。特殊な要求でも容れる包容力、町家が支えた地域の人と人のつながり、職人がいれば住み続けられる町家、暮らす人に様々な影響を与え、子供の情操に与える大きな影響、などである。一方、公開される町家でも住み手の大切な家であることを踏まえてほしい、という訴えや町家が引き継がれてきたなかで蓄積されたものを汲むべきである、という注文も出された。町家の快適性については風、土のにおい、など自然に囲まれている安心感、寒い冬と暑い夏そして土間で洗った野菜を思い切り水切りできる、などであった。
 次に2班に分かれ座談会が行われた。町家が減っていく、近所づきあいを含めた暮らしの変化が町家を遠ざけた、職人がいない、などの町家が守りにくい状況を訴える意見が出され、現代的快適性と町家のそれとの食い違いもあったが、町家に住めば暑い寒いも慣れるはず、便利さを追求した結果失った大切なものに気づくなかで町家が見直されている、などの希望のもてる意見も多かった。

 第2回はテーマが「町家の安全性と防災」、参加者が35名内一般参加者15名。まず2名の専門家による報告が行われた。奥田氏からは京大防災研の町家実大振動実験の成果を踏まえた町家の強さ弱さが報告された。氏は現状の町家の構造は大地震の際に危険であり、何らかの補強が必要であること。また補強の前に健全な状態に戻す改修や施策が必要であるとする。次に安井氏から土壁などの燃焼実験の結果を踏まえた報告がされた。江戸時代末に瓦を葺いた時点で町家は防火上完成したとする氏は土壁の耐火性、焼き杉や格子の延焼遅延効果などを説明する一方、軒口の面戸や土壁と柱の隙間などの弱点と克服の仕方が説明された。報告後の参加者の意見は、免震ダンパーの効果やひとつ石の是非、あるいは耐震改修の仕方や費用についての質問などであった。休憩後パネルディスカッションに移り、パネラーは講師と小針、木下両氏そして船鉾の長江氏、コーディネーターは木村氏。一般参加者の質問に答える形で進められ、ダンパーやはしご梁の効果、柱の足下の緊結の是非等の質疑応答が行われた。また小針氏から裏の町家で起きた火災の実体験が披露され、壁が火に耐え屋根に火が抜けたというハードの利点と近所がその家の暮らしぶりを知っていたことが、消火に役立ったというソフトの効果が示され、防災におけるコミュニティーの役割が認識されるとともに、このような情報を市民に伝える必要性が確認された。アンケートでも貴重な情報であったという意見が多かった。

 第3回はテーマが「町家の技と継承」、参加者が30名内一般参加者17名。まず木下氏から船鉾町家の改修において、既存の傷み具合に対して職人とやりとりしながら改修を進めた経過が説明された。次に荒木氏が自身の丁稚修行のようす、店を継いだ経過、昔と今の大工の違い、そして京町家棟梁塾への期待などを話された。そしてその棟梁塾の趣旨とやり方が末川氏により説明された。その報告を受けて、それに対する参加者の意見は、話の内容に感心した、職人(設計者含む)としての努力を触発されたなどの意見が出された。休憩を挟みパネルディスカッションに移り、パネラーは報告者と若手の職人たちそして改修の施主である建田氏、コーディネーターは堀氏。内容は昔と今の職人の変化、設計者と職人の役割と協働の仕方、新旧の技術などの技と職人の話であったが、内容は土壁や耐震性など多岐にわたった。

 第4回はテーマが「町家を新しくたてるには」、参加者が27名内一般参加者が18名。報告は末川氏から町家の現行法・基準における位置づけ、木下氏からヨーロッパの伝統的建築の評価と保存・活用の状況、木村氏より燃焼実験や振動実験の成果で町家の新築が可能となった状況、であった。報告に対する参加者の意見は、古いものは価値あるものとして残すというヨーロッパの状況と町家が建てられるという発言に集中した。その後のパネルディスカッションは報告者に姉小路と梅津でまちづくりに奔走する市古氏と大西氏を加え、コーディネーター梶山で行われた。まずまちづくりと町家に関して市古氏から国、市の合わせ補助と自己負担で町内の町家の改修を進めてきた話、大西氏からは古い民家が壊され、建て売りに変わってしまうことや、200年近くたつ立派な民家の屋敷の上に道路が計画されていることが報告された。その後様々な意見交換があったが、超法規的なヨーロッパのようなやり方と法規準に適合させようとするやり方との比較から京都のやり方を模索する意見を始め、みんなの意識が変わらなければどうにもならない、そのためには専門家や関係者が社会にアピールをしなければいけないというところに落ち着いた。
 以上長々と会合のようすを記述したが、各回は別々のテーマで行われたものの、町家においては暮らし、防災、地域社会、技などが緊密に関係していること、町家の保全・再生には施主、作り手、市民、行政それぞれに責任があり、かつ協力して社会に訴えていく必要があることが確認された。その点でこの企画は成功したといえるが、次回は最終回でこの成果をいかに収めるか乃至はいかに打ち出すかという難儀な課題が突きつけられている。 

(2008.9.1)