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京町家作事組
町家再生再訪・その3

高林邸

(設計施工:堀工務店)<第1話>

作事組による現場検分

畳をめくり床下をみる

屋根工事中

葺き替えられた瓦屋根
 出町柳の駅から百万遍へ向かう途中、細い路地を入ったところに門と前庭で守られた長屋建ての町家がある。昭和初期に建てられた家は一時空家になっていたが、新たな住まい手を得て2000年に息を吹き返した。高林さんご一家がこの家に移り住まれて16年。周囲の環境が移り変わっていくなか、町家に沿った暮らしを大切に守り続けている。家と出会い、改修工事が始まってから完了するまで、近隣に同時進行で新しい家が3軒建ち、ご夫妻には町家再生との対比が興味深く感じられた3か月だった。当時のことを振り返りながら、これからの町家暮らしについてご当主の高林素樹さんに伺った。

***

 町家に住むことになるとは予想していなかった。

 1年足らずの間、家さがしをしていたが、いろんな中古物件を調べたり見に行ったりしているうちにだんだん疲れてきて、もう家探しは当分の間やめようと決めた。
 ところがそれからしばらくして、仕事場である実家に舞い込んだチラシを見つけ心が動いた。同じ町内で古家付き土地としてひとつの物件が紹介されていた。職住一致に近い暮らしが可能な距離だ。
 取り扱いはボーイスカウトの後輩が活躍している会社だ。思い切って彼に連絡し、見せてもらうことにした。
 小さな門があったが樹で押しつぶされて引戸が動かず、トタン張りの塀の一部が出入り口になっていた。
 夜だったので懐中電灯で見ただけでは詳しいことはわからない。話を進めたいのであれば、購入申し込み書を記入し、手続きを始めなければならなかった。早く決めないと、交渉権が次の人に移ってしまうのでということだった。
 同じ町内ではあるが、めったに通らない路地の中ほどにある家だったので、この空き家のことはまったく知らなかった。
 不動産屋さんとの手続きを進めながら、この古家をきちんと修復してくれる人を大至急探さなければならなかった。少なくとも台所、お手洗いと風呂は改修しないと住むことが出来ないのは明らかだった。不動産会社の建築部の検分では、下手にいじるとかえって危険、建て替えた方がよい、という結論だった。

 たまたまその半月ほど前に、環境市民の自然住宅研究会の世話人松野晴美さんが企画した町家見学のイベントに参加したばかりだったので、松野さんに相談したところ、「京町家作事組」という団体を紹介してくださった。
 電話口で梶山理事長に「それは町家ですか?」と聞かれたとき、いいえ、町家ではありません。ただの古い木造の家です、と答えたのだが、見取り図をファックスで送ると、これは町家です、一度現場を見てみたい、と言ってくださった。
 それからは急展開で、2度の現場検分ののち修復費用の概算説明を受け、一方で土地購入のローン契約、登記申請、売買取引を進め、工事はゴールデンウィークが明けてからという予定が決まった。

 5月21日日曜日、ご近所へ改修工事のあいさつに行き、知人の写真家に改修前の家の様子を写真に撮ってもらった。これが貴重な記録となった。
 工事は翌日の月曜から始まり、非常にスピーディーな作業で、家が長年まとっていたものがどんどんはぎとられていった。
 1階部分は両隣と壁一枚でつながっているので、台所のタイル壁を叩き壊していくときの振動と騒音とホコリで大いに先方を驚かせてしまった。
 水回りは古い土管と細い管だったので、掘削してすべて付け替え。
 大屋根は北半分がトタンに代わっていたので、すべて葺き替え。
 東南の屋根や隅柱はものすごく腐食が進んでおり、傷んだ部分が遠慮なくはがされていった。
 屋根裏で見つかった棟札によれば、この家は昭和2年10月建立で、長い間黙って傷むままにされてきたのかと思うと、家が気の毒な気がした。

<記・高林素樹  取材・作事組事務局 森珠恵>

(2016.9.1)