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京町家作事組
町家再生再訪・その12

ぜにや祗園店

 西本願寺前、堀川通に面して香り老舗の薫玉堂さんがあります。薫玉堂さんにゆかりのあるぜにやさんは現在、念珠を専門に扱うお店を二店舗構えていらっしゃいます。本店は西本願寺総門前から東へ出る正面通りに面しています。今回は八坂神社前の祇園町北側にある祗園店を訪ね、北山彰良社長にお話しを伺いました。

―ぜにやさんは薫玉堂さんとどのような関係にあるのでしょうか。
 薫玉堂は、1594(文禄3)年、薬種商として創業し、現在まで本願寺御用達として22代続く薫香の老舗です。ぜにやは 野家18代当主の弟、 野弥七さんが両替商・銭屋小佐衛門の屋号から「ぜにや」という名で明治7年に店を出し、念珠や打敷、小間物などの仏具を扱ったのが始まりです。弥七さんのあと、息子、いとこ、又いとこが店を継いできましたが、高度経済成長の波にのり発展した薫玉堂から離れ、いったん家族経営をクローズしました。現在の西本願寺前本店の町家は、当主が亡くなって、しばらくおばあさんが一人暮らしをされ、空家になっていたところ、薫玉堂の 野氏が取得し、2002年にぜにや事業部を立ち上げたのです。従来仏具の一アイテムとして扱っていた珠数を柱とする念珠専門店の店舗づくりを作事組に相談しました。

―ぜにや西本願寺前本店開店の流れは現在からみていかがでしたか。
 2002年2月に作事組に町家改修の相談をして、現地調査の所見では、建物は陸立ちで3階を載せるなど増築や改修がされていて、ぼろぼろの状態なので、本来は全面的に改修できたらよかったのですが、予算も工期も限られていたので、改修範囲を一階のみにとどめることとし、5月に設計監理と工事契約を結びました。珠数屋町の表にガラス張りの職人の実演スペースをつくるというアイデアは、界隈ではじめての試みだったと思います。表で物を作り、中の間は包装のスペースやレジ、PCを置き、奥の間は非物販のサロンとして、珠数の修理相談や商談ができるようにしました。9月に着工し、12月15日に竣工、オープンは2003年4月でした。  当初は2階を事務所、3階を在庫品等の収納場所としていました。しかし5年とたたないうちに珠数の新アイテムが増えて1階の販売スペースがいっぱいになったので、中の間の備品を2階へ移し、建具を取り払い、売り場を広げました。  店がオープンして今年で15年目になりますが、できることなら2階や3階もショップにして窓から界隈を眺められるようにしたいです。しかしそのための休止が有効でないこともあるので、はじめのうちに全面改装のプランニングができればよかったと思います。

―西本願寺前本店から祗園店への展開について
 2008年、ぜにやは薫玉堂から分社化し、2軒目の店舗として祗園の果物屋(八百平)さんだった町家を取得しました。2009年6月に竣工し、9月にオープンしました。西本願寺前本店で学んだことをいかして全面改装し、立体的に建築物を活用するプランを実現できました。「立体」の意味は、1階の職人による実演販売を気軽に見に来られる人にとどまらず、遠方の方にも情報発信ができるよう、自社通信やHP製作をする場所を2階に設けました。2階の窓から八坂神社を眺み、家具調度、書籍などを揃え、ワークショップやサロンの機能をもたせています。  ところでMOTTAINAIキャンペーンをご存知でしょうか。2005年に環境分野でノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんが「もったいない」という日本の言葉と精神に感銘を受け、世界に提唱しました。毎日新聞社と伊藤忠商事が主幹で事業を募集し、物作り企業・マスコミも参加してリサイクルの箸、食器等を作ったりしているのですが、ぜにやも寺院の御堂修復事業の際に、使わない古材を預かって木の珠数を作り、落慶法要のお祝いの引き物にするという企画がとおりまして、ずっと協賛を継続しています。3R(Reduce,Reuse, Recycle)の取組み継続によって環境へのリスペクト+Rが広がればと願っています。

―これから京都で町家を活用しようとする方へ
 物づくりだけでなく、レストラン、プランニング、執筆業など、色んな職業の方に町家を利用してもらえるといいですね。目的、対象は何なのか、利用者、人間がはっきりしていないといけません。町家取得の際に相続人の方に会いに行きましたが、高齢者が住まなくなった町家を相続しなかった人は、みな近代住宅に住んでいるということを実感しました。私は2軒の町家で店舗づくりを経験して、なぜその家がこの土地にこのように建てられたのか、なぜトイレがここにあり、風呂がないのかなどの意味を教わりました。トオリニワは廊下ではなく庭であり、どう活用すれば自然光や風を取り込み、動線が流れるのか、井戸はなぜあり、水はどこからきているのか、といったことも理解し、町家の特徴を残して活用するのが事業者の仕事と捉えています。 店舗づくりで最初に設計者に伝えた希望は、2階の表の眺望です。広い開口から四季折々の鮮やかな風景、一日の時間の推移を楽しめます。夕方には日光とランプの光の加減でオレンジ色に染まります。珠数の原料は世界から輸入していますので、家具調度も、様々な場所から仕入れています。チェンマイやインドの家具、山口県の羊羹屋で作られた手描き唐草の掛時計、ワインのタンニンでなめした革ソファは広島県福山で拳銃ホルダーを作っている工房のものです。選び抜いた物と共にある特別な空間で、珠数に親しみ、壊れたら修理をして、長く大切につきあっていただきたいと考えています。
1階 表の間-中の間 職人さんの実演 2階 サロン 北山社長
1階 奥の間 2階 商談テーブル
(取材・構成:京町家作事組事務局 森珠恵)