今回から新連載「町家改修設計の勘どころ」が始まります。作事組の設計士さん達に、町家の改修設計とは一体どんなことをするのかをお聞きします。1回目は、一級建築士事務所アトリエ RYO所長の木下龍一氏に、改修設計の進め方についてお話を伺いました。 ◎町家改修における設計士の役割とは? 実はお施主様から改修の際に設計の必要性を問われることはめったにないんです。むしろ当事者である我々が自問自答することが多いかもしれません。というのも明治以前、設計図は全て大工さんの頭の中に入っているものでした。図面も大工棟梁が木の板に書いていたんですね。当時は個人の持ち家というのは少なく、大家さんが借家を何軒も所有していました。借家を日常的に手入れする中で、町家の建主自身が設計の知識が豊富だったのです。 今の設計士は、図面を引いたりデザインを考えたり、現代設備が増えたぶん設備設計の内容も多くなりました。お施主様と施工者とをつなぐ役割もあります。普段の生活スタイルについてお聞きし、気になることをわかりやすく説明してさしあげる。その他、用途変更や敷地境界の問題、助成金の申請などは日常的に相談を受けますが、ある程度までアドバイスをしたうえで専門家を紹介したり役所との折衝に当たったりもします。今はこういった窓口としての立場も設計士の大きな役割ではないでしょうか。 ◎作事組の設計プロセス 京町家作事組で行っている改修設計の一般的なプロセスをご説明しましょう。(場合により前後したり同時進行したりすることがあります。)
◎設計のプロセスで大切にしていること お施主様の抱くイメージと予算とのくい違いがないように気をつけています。また、お施主様には改修前の傷んだ箇所をしっかり見ていただきたいのです。現場の様子をできる限り知っていただくことで、工事を経てどのように改善されたか理解されることが、建物に愛着を持っていただくためにも大事なことだと思いますね。 町家は融通のきく建物です。後々、設備だけ入れ替えたいと思った時でも、構造体に手を入れずに独立して管理・修繕できるよう設計しています。地域の文化財として周辺の人々との関わりが広がることを願いながら、この先長い間大事に住み続けていただけるように心がけています。 聞き手:常吉裕子(作事組事務局) 設計士プロフィール
一級建築士事務所 アトリエRYO 所長 木下龍一氏 徳島県出身。京都大学大学院在籍時の1970年に交換留学生として渡仏。近代建築を勉強するつもりでいたところ、当時ヨーロッパでは古いものを壊すのをやめようという運動が盛んで、歴史的建造物の分析や再生方法を学ぶ。そこで日本の伝統木造技術をもっと学ばなければと覚悟を決め、帰国後は移築した民家に自ら手を加えて住みながら、古民家の再生など木造建築を数多く手がけてきた。町家を残したいという思いのもと京町家再生研究会の設立に加わり、現在、京町家作事組の代表理事。「日本の伝統的な美に対する価値観を取り戻し、古いものを現代に生かす創造的な仕事をしたいですね。」 (2014.7.1) |