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京町家作事組
町家改修設計の勘どころ・その1

町家改修設計のプロセス

 今回から新連載「町家改修設計の勘どころ」が始まります。作事組の設計士さん達に、町家の改修設計とは一体どんなことをするのかをお聞きします。1回目は、一級建築士事務所アトリエ RYO所長の木下龍一氏に、改修設計の進め方についてお話を伺いました。

◎町家改修における設計士の役割とは?
 実はお施主様から改修の際に設計の必要性を問われることはめったにないんです。むしろ当事者である我々が自問自答することが多いかもしれません。というのも明治以前、設計図は全て大工さんの頭の中に入っているものでした。図面も大工棟梁が木の板に書いていたんですね。当時は個人の持ち家というのは少なく、大家さんが借家を何軒も所有していました。借家を日常的に手入れする中で、町家の建主自身が設計の知識が豊富だったのです。
 今の設計士は、図面を引いたりデザインを考えたり、現代設備が増えたぶん設備設計の内容も多くなりました。お施主様と施工者とをつなぐ役割もあります。普段の生活スタイルについてお聞きし、気になることをわかりやすく説明してさしあげる。その他、用途変更や敷地境界の問題、助成金の申請などは日常的に相談を受けますが、ある程度までアドバイスをしたうえで専門家を紹介したり役所との折衝に当たったりもします。今はこういった窓口としての立場も設計士の大きな役割ではないでしょうか。

◎作事組の設計プロセス
 京町家作事組で行っている改修設計の一般的なプロセスをご説明しましょう。(場合により前後したり同時進行したりすることがあります。)
  • 現地訪問、調査
     大工さんと一緒に現地を訪問し、建物の状態をチェックします。お施主様が気付かなかった傷みや問題点が見つかる場合も多く、ご希望と予算をお聞きしながら、改修の優先順位をご説明します。後日、現況図と概算のお見積りを提示して打合せを行います。予算の制約は付きものですが、その場合は将来にわたって段階的に再生できるようご提案します。
  • 設計契約
    お施主様側で改修方針と予算が決まれば、設計士と契約を交わします。
  • 実測調査
    各職方と共同で実測調査に入ります。天井や床、ベニヤ板等の新建材をめくるなど部分的に解体しながら、床下から天井裏まで詳細に調査し、建物の歪みや不同沈下、腐朽箇所、過去に行われた改修の痕跡を記録します。この他に、町家の様式や空間の特徴、地域の歴史や景観政策等、建物が置かれている背景についてもよく調べます。
  • 図面の作成
    平面・立面・断面図を作成します。作事組では町家を本来あるべき姿に戻すことを基本方針としています。そのため、建物の過去の改修履歴を考慮しつつ現代の新しいリクエストを加えながら、将来を見据えた復元計画を行います。
  • 打合せ
    作成した図面を元に、お施主様と話し合いを重ねます。他の物件の施工写真を見ていただいたり、簡単なスケッチを描いてご説明することもあります。
  • 改修事例の見学
    お施主様が抱く改修後のイメージやご希望を具体的に共有するために、釜座町町家をはじめとする改修事例を見学していただきます。日程が合えば施工中の他の現場にも足をお運びいただき、工事の様子をご覧いただけます。京町家ネットが主催する勉強会やイベントも随時ご案内しています。
  • 見積書の確認、予算調整
    照明器具や設備スイッチなどの細かい点まで打合せを進め、その都度、設計図を修正します。施工者から出た最終見積書をチェックし、予算との調整を行います。竣工時に思い違いがないように、最初の希望額と差が出ないように、努めています。
  • 着工後の監理
    いよいよ工事が始まると、定期的に現場打合せを行い、大工さんや各職方と工事内容や工期を確認し合います。
  • 完了検査
    工事完了後、作事組の他の設計・施工者立ち会いのもと、問題点がないかチェックします。

◎設計のプロセスで大切にしていること
 お施主様の抱くイメージと予算とのくい違いがないように気をつけています。また、お施主様には改修前の傷んだ箇所をしっかり見ていただきたいのです。現場の様子をできる限り知っていただくことで、工事を経てどのように改善されたか理解されることが、建物に愛着を持っていただくためにも大事なことだと思いますね。
 町家は融通のきく建物です。後々、設備だけ入れ替えたいと思った時でも、構造体に手を入れずに独立して管理・修繕できるよう設計しています。地域の文化財として周辺の人々との関わりが広がることを願いながら、この先長い間大事に住み続けていただけるように心がけています。 聞き手:常吉裕子(作事組事務局)

設計士プロフィール
一級建築士事務所 アトリエRYO 所長 木下龍一氏

 徳島県出身。京都大学大学院在籍時の1970年に交換留学生として渡仏。近代建築を勉強するつもりでいたところ、当時ヨーロッパでは古いものを壊すのをやめようという運動が盛んで、歴史的建造物の分析や再生方法を学ぶ。そこで日本の伝統木造技術をもっと学ばなければと覚悟を決め、帰国後は移築した民家に自ら手を加えて住みながら、古民家の再生など木造建築を数多く手がけてきた。町家を残したいという思いのもと京町家再生研究会の設立に加わり、現在、京町家作事組の代表理事。「日本の伝統的な美に対する価値観を取り戻し、古いものを現代に生かす創造的な仕事をしたいですね。」

(2014.7.1)