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京町家作事組
町家改修設計の勘どころ・その3

京町家の構造

 シリーズ3回目は「京町家の構造」について、末川協建築設計事務所代表の末川協さんにお話を伺います。

 末川さんはこの4年間、祇園祭の大船鉾の調査・設計を担当され、150年ぶりに巡行凱旋と成った大船鉾とともに節目の50歳を迎え、山鉾と京町家を技術で結ぶ設計士として活躍されています。山鉾と京町家それぞれの構造と建て方に共通する優れた特徴を読み解く鍵は、時に応じて変位する「組み合わせ耐力」のすばらしさ、と語る末川さんのブックレット『町家構造事始』(2010)をテキストに、傑出した棟梁たちが編み出した京町家の技術の粋に思いを馳せてみたいと思います。

◎鉾と町家の接合部
山鉾は短期間の組み立てと解体を前提とした仮設に近い建物で、地上25m、総重量12トンにおよび、しかも巡行します。山鉾はその条件に耐える柔らかく粘り強い構造を持っています。櫓、舞台、真木の三つの基本要素に車輪が接合されています。真木を支え、櫓と合体させる禿柱(かむろばしら)と燧のつくる形状は、櫓の上に四角錐が載るだけのシンプルなもの。幾何学系に対する並々ならぬこだわりが感じられます。また部材の圧縮や曲げ、仕口の摩擦といった軸組みの接合部にかかる力を考慮して、随所に縄がらみが施されています。真木の縄がらみは3ないし4本の部材を麻縄で結び、割竹で覆って稲藁を挟みさらに編んでいく。車両部は、重い鉾の荷重を、櫓の腰貫から、石持ちへ、石持ちから車軸へ、接点で受け渡す鉾の全体構造がばらばらにならないように一体化されています。縄がらみに町家の土壁のような役割をみることもできるでしょう。シンプルで美しい構造はメンテナンスのしやすさにつながります。耐久性でいえば、舁山の占出山は明治末期以来およそ100年ぶりに新調されたそうですが、もたせようと思えば300年はもつともいわれます。

◎京町家の構造の特徴
山鉾の巡行に対して、町家の場合は、通常の積荷重に地震という外力が加わる時のことを想定しなければなりませんが、各部材の接合部において振動をどう吸収し、また逃がすのか、あるいは受け止めるのか、その組み合わせ耐力が、時間軸にしたがって変位していきます。つぶさにみれば荷重の受け持ち方の全体のバランスが感動的なほどよく考えられているのがわかります。
 まずはごく簡単な模型を使って感覚で理解してもらうとよいでしょう。こちらの模型で棟の端にあたる三角形の頂点を桁行きに指で深く押していくと平行四辺形に変形して倒れません。接合部が回転し、妻壁と屋根の母屋がねじれてばねのように抵抗します。こういう組み合わせの抗力が、2階の床と側柱をつなぐホゾ差しの込栓や、母屋と柱の仕口など、色々なところで働き、変形し、壁が崩れても持ちこたえます。木組はパズルに似たクリエイティブな仕事です。その建て方は、X軸、Y軸方向へ均等に固められる在来工法と違い、全体が組み上がると足場を固めずとも自立できる仕組みが確保されいます。軸組みの仕口と土壁の組みあわせ耐力が時に応じて剛性と柔軟性をあわせもって働きます。外力や変形の小さい地震で、初期に働く抵抗要素は、それが地震を受けきれなくなって次の抵抗要素に外力を肩代わりする際にも壊れきってしまわない。地震の初期に対抗する土壁の働き方と、最後まで大地震に踏ん張り続ける土壁の壊れる部位も壊れ方も違います。京町家の構造は、仕口がつながり続ける限り最後まで自立しています。京町家の構造がそれ自身安定していることで、最後まで人命を守る可能性があるということです。

◎性能評価と状態評価
 構造性能評価を理論付けるのは難しいことです。ピーター・ライスのような天才的な建築構造家が町家建築の性能評価をやれば、現行の耐震評価とは違う理論が明らかにされるかもしれないが、私の立場は、状態評価が正しくなされ、京町家が本来の姿で新築され、適切に保たれながら町場に広まっていくことが大切だと考えます。京都市も、耐震診断をもとにした性能評価と部位ごとの状態をみる状態評価というふたつの基準をもってそれぞれ独立した支援事業を運営しています。まちの匠の知恵を活かした京都型耐震リフォーム支援事業の審査基準は、町家の歴史的価値を認め、状態評価だけでその存続を支えようとする姿勢の表れでしょう。

◎町家の魅力は何もむだにならないこと
 鉄筋コンクリートの建物を解体するとき山のような廃材を海に運び処理してもらうのとは大違いです。壊した土壁も再利用できます。京町家の基礎は石端建てで、もともとは柱が石の上に載っているだけ。足元を固めない。昭和初期型の町家は基礎石だけでなく土台が入ります。二階の階高が高い総二階建てで、妻壁が水平材で上下が分断されている。そのため、伝統工法と「在来工法」の過渡期に位置づけられます。京都の町家の過半数がこの昭和初期型に当るので、京町家の伝統構法の近代化がその後の町家の手入れを難しくているからといって、それを町家ではないということはできません。改修の際に土台の傷みの顕著さ、根継ぎの面倒さ、各階ごとの歪み突きのばらつき、1、2階で上下にずれた柱の揚げ前の面倒さはありますが、実務上それにしっかりと向き合う必要があると考えています。

聞き手:森 珠恵(作事組事務局)

設計士プロフィール
末川協建築設計事務所代表  末川 協

1964年4月 京都市生まれ
1989年 京都大学大学院工学研究科建築学教室修了
株式会社浦辺設計勤務を経て、
2001年国際協力事業団青年海外協力隊参加
  至2003年12月ブータン王国王立司法裁判所勤務
2004年9月 末川協建築設計事務所設立
2011年から祇園祭山鉾連合会専門委員

(2014.11.1)